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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

受験対策を通して基礎教育の充実を

第504号 2015/10/23(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 神奈川県の小学校では、すでに多くの学校で合格発表が終わり、11月からは都内の私立小学校、続いて国立大学附属小学校の入試が始まります。最後の国立附属小の発表が終わるのは12月20日過ぎになり、そこまで延々と1カ月半以上続きます。リーマンショックや東日本大震災の影響からか、小学校受験を目指す子どもたちの数は減少の一途をたどってきましたが、果たして今年あたりで下げ止まったのかどうか。入試の結果を見て、分析したいと思います。指導の現場から得られる感触では、下げ止まったのではないかと思いますが、果たして今後右肩上がりになって行くのかどうか・・・関心を持って見守りたいと思います。

学校側にとっても、定員割れを起こして4月の新学期を迎えるわけにはいきませんから、受験者減少の現実を踏まえ、生徒獲得のために魅力的な学校づくりをめざして、さまざまな工夫をしてきました。その結果、幸いなことに我々の一番の願いであった小学校側からの情報公開も、不十分とはいえ以前に比べると相当行われるようになってきました。塾の教師と小学校の先生方が顔を合わせる機会も増え、入試に関する情報も、そうした塾向けの説明会を通して我々に伝わってきます。幼児教室を通して学校情報を伝え、多くの子どもたちに足を運んでほしいと願っている学校が増えています。学校の先生が塾に出向いて講演することなど、学校の公平性の観点から以前は考えられなかったことですが、これからは頻繁に行われるかもしれません。幼児教室と小学校の蜜月時代と言ってもいいかもしれませんが、一方で、教え込みの間違った指導に警鐘を鳴らす学校も出てきました。受け入れる学校側が入学してくる子どもたちを見てそうした警告を発するのは、健全なことだと思います。入試の結果がゴールなのではなく、入試の結果はスタートであり、その後の学校生活を支えるレディネス(準備性)の育成になっていかないような間違った受験対策は、子どもの成長を阻害する結果を招くことになってしまいます。

私が教室指導の現場で、少し心配な行動をとる子どもの保護者と面談すると、きまって明らかになるのは、幼稚園受験のために相当厳しい環境の中におかれ、強制された学習をしてきているという事実です。2歳や3歳の頃から、ペーパーを使った教え込みの指導と厳しい人間的な対応の中で、子どもたちの精神状態が不安定になるのは、その道の専門家でなくてもわかることです。そうした問題を抱えながら、また同じように厳しい環境で小学校受験のためのトレーニングを受けたらどうなるか、お分かりいただけると思います。そうした子どもに毎年出会いますが、特別扱いしないで子どもの今を受け入れること、そして、あきらめないで向き合ってあげること、また、その子の良さを見つけ出し、評価し認めてあげること・・・そうした関係づくりの結果、子どもは必ず変わっていきます。逆に、行動に問題があるとして受け入れることを拒否したら、問題行動はますますエスカレートしていくでしょう。幼稚園受験も含めた、いわゆる「お受験」と言われる幼児期の教育の中で、日の当たる部分と日陰の部分があるということを知っておく必要はあります。その日陰の部分を切り捨てていくとすれば、受験によって子どもたちの成長を阻害する結果になってしまいます。

受験をしない方々から見ると、「お受験」は特殊な教育と捉えられている面が強いと思います。実際、私が携わってきたこの40年間の入試方法の推移を見れば明らかなように、幼児期の基礎教育とはかけ離れた試験内容や試験方法を取っていた時期もありました。その意味で「特殊な教育」だとみられる要因は確かにありました。しかし、いろいろな問題に直面しながらその課題を乗り越え、現在に至っている小学校入試は、大学入試の改革も含め、これから始まる入試改革の議論の中でもモデルケースになりうる要素を持っていると思います。「考える力」を求める洗練された問題、学力だけでなく、今はやりの「非認知能力」を見る行動観察、保護者の考えや育ちの背景を探る三者面談・・・我々が、ごく当たり前のように考えてきた入試方法が、実は画期的な要素を持っていることがわかってきました。あらゆる側面から考えても、「お受験」が特殊な教育だと見られることはないはずなのに、受験をしない方々からそう見えてしまうのは、行き過ぎた指導、普通では考えられない競争心の植え付け、カリスマ教師の傲慢な態度、こうした非教育的であると思われる行為が、「合格のためなら・・・」となんでも許される雰囲気の中で行われている・・・こうした点が特殊な教育だと言われる最大の理由だろうと思います。この誤解を解くために、私が各地で行なう講演会の演題のほとんどが「幼児期の基礎教育と小学校受験」というものです。一見全く違う教育だと思われがちなものが、実は1本につながっているのです。ですから、小学校受験をする子どもたちは、きちんとした基礎教育を受ければそれが入試対策になるし、受験をしない子どもたちにとっても、小学校受験で学校側が問いかけてくる問題には、小学校入学後に必要な、とても大事な思考法が盛り込まれているということです。

いま世の中全体として、「幼児教育の大切さ」が認識されており、これからさまざまな議論が沸き起こってくるはずです。当然その中には、「お受験」問題が絡んでくるはずです。その時、特別な人たちが行う特別な教育ではなく、その問題の中にこそ、これから幼児期の基礎教育を議論する素材がたくさんあるという認識を持ってもらえるようにするために、現場の我々には大きな責任があると思います。校長先生方が集まるある会合で、私は現場の先生方にお願いしました。「子どもを受け入れる学校側と子どもを送り出す塾側が、同じ考えで手を取り合って幼児期の基礎教育を考え実践しないと、子どもの成長にとってプラスにならない。そのために、できるだけ正確な入試情報を公開していただきたい。」その想いが少しずつ実現しているのを見ると、40年前には想像もできなかった塾と学校との良い関係が構築できるのではないかと、期待しています。

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