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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

ひとりでとっくんシリーズ」が小学校受験に与えた影響

第443号 2014/7/11(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 こぐま会のオリジナル教材は、現在全国190ほどの書店で取り扱ってもらっています。すべて「直取引」で、営業担当者が全国各地の書店を回って設置してきました。日本だけでなく、上海をはじめ海外でもネット販売しています。受験に関係ない方にも幼児向けの学習教材として活用してもらっています。また、養護学校から注文を頂いたり、時には、お年寄り向けの病院からも問い合わせがあります。もともと会員向けに開発した教材を全国販売に踏み切ったのは、渋谷の西武デパート前に昔からあった「大盛堂」の学参担当の方から何度もお願いされ、そこの学参売り場に置いたのがきっかけでした。もう20年以上前のことです。それを知った他の書店の学参担当者から、「ぜひうちにも・・・」ということで広がっていきました。

企業秘密であるべき「教育の内容」をテキストを通して公開することに関しては、多くの役員から反対されました。その反対を押し切って公開したのは、教育はすべての人々の共有財産であり、独占すべきものではないということ、また、全国の皆さまの目に触れれば、教具・教材を通して新しい出会いがあるかもしれない・・・と考えたからです。しかし、役員の多くが予想した通り、数年経つうちに、受験関係者の多くがこぐま会のオリジナル教材をまねて、同じようなものを作り販売し始めました。ひどいところでは、こぐま会の担当職員をヘッドハンティングし、100冊の問題集をばらして新たにまとめ直して同じようなものを作ったり、「一対多対応」に象徴されるように、私たちの造語をそのまま使ったりしています。時には、こぐま会の名前を消してコピーしたものを、その教室のオリジナル教材だと偽って保護者に売ったり、こぐま会の教室に通う会員から授業で使う販売していない教材を買い取って、それをその教室でそのままコピーして使ったりしているようです。転塾してくる保護者の皆さまからの「前に通っていた塾では、こぐま会の教材を無断でそのまま使って授業していました」という類の報告も後を絶ちません。指導案に沿って教材一つすら作れない者が、こぐま会の教材を隠れて使っている現状が、今の受験産業の実態です。子どもの教育のために、自分たちが工夫して作った教材を使って授業するのではなく、こぐま会の教材をコピーして使っている現状は、どう見ても間違っています。コピーして教室で使ったり、コピーした教材に値段をつけて売っているという話を聞くと、怒りを通り越してあきれてしまいます。どんなにまねされても、オリジナルなものは最後まで残ると信じ、新しい教具・教材を投入してきました。実際書店での売れ行きもこぐま会の教材が断トツのようですから、購入者の皆さまは、どれが本物でどれが偽物かをわかっているのでしょう。また、こぐま会の教材が使いやすい理由は、はっきりしています。それは、教育理念に沿った現場の授業から生まれた教具・教材であるからです。授業の意図に即して手作りで作り、それを教室で検証し、商品化しているわけですから、子どもの取り組みや思考法、理解の順序等が全て盛り込まれています。そのことは、「ひとりでとっくんシリーズ」の構成を見ていただければ一目瞭然です。30枚のペーパーのうち最初の5枚と最後の5枚とでは、難易度に相当の開きがあります。それが、年中から年長の皆さんに幅広く使ってもらえる理由です。どこまで理解し、どこからわからなくなっているか・・・それこそが子どもの理解の順序性なのです。1987年に第1号を発行し、それ以来今日まで作り続けてきましたが(→コラム第6号「ひとりでとっくん第100号が完成します」)、今でも修正を繰り返し、子どもの理解度に合わせた教材作りを目指しています。

「ひとりでとっくん」と命名したのにはわけがあります。一番最初に作った「点図形」や「迷路」等に象徴されるように、知能検査的な問題は、問題を見れば子どもたちでもどのようにすべきか良くわかります。お母さまやお父さまがいなくても、自分で学べるという想いを込めて「ひとりでとっくん」としたのですが、作り始めていくと、お母さまが設問を読んであげないとわからない問題も増えてきました。しかし、最初の作り手の想いがあるため、100冊までは名前を変えないで作り続けてきました。幼児向けのワークブックを単元別に出版したのは、こぐま会のこの「ひとりでとっくんシリーズ」が最初です。こうした問題集の作り方は他にも波及し、小学校の問題集作りにも影響しています。

教科書がない小学校受験ですが、受験対策の教科書として「ひとりでとっくんシリーズ」を多くの皆さまに使ってもらっています。この問題集の中から多くの問題が実際の入試にも出されていることから、皆さまに支持されているのでしょう。例えば、言語領域の言葉の学習に関し、「一音一文字」に関する応用問題が最近たくさん出されていますが、そもそも、こぐま会の問題集が出る前は、「一音一文字」に関する問題など、入試で出されたことはなかったのです。しかし、私たちは幼児期の教育課題にすべきだと考え、最初から授業でも扱い、問題集も作りました。それがある時期から急に入試でも出始め、今では、言語領域の入試問題の中心にさえなっています。入試問題の作成を担当する学校の先生方も「ひとりでとっくんシリーズ」は良く見ているようです。そのため、最近の問題は、洗練された良い問題が増えています。難問・奇問が消え、将来の学習に必要な基礎的な内容に変わってきています。こぐま会の基礎教育の考え方が、多くの学校で支持されてきたことの表れでしょう。その上、「型」を教え込む教育に対し警告を発する学校が増えているということは、教え込みの特別な教育で潰されていく大勢の子どもたちを見て、そうしたやり方では学習意欲も低下し、将来伸びないと考えているからでしょう。

「受験は教え込みの教育だ」と信じている人たちは論外です。しかし、受験をきっかけとして幼児期の基礎教育を充実させ、将来の学習の基礎づくりができるならば、幼児期の知的教育の在り方に一石を投じることになると思います。受験があるなしに関係なく、これからは幼児教育が世界的に注目されていくでしょう。そうなれば、まともな基礎教育を実践し、受験にもきちんと向き合ってきた「こぐま会」の実践が果たす役割は、大きいと思います。


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