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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

小学校受験の今、そして これから

第400号 2013/8/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 2005年から書き始めたこのコラムも、今回で400号を迎えます。毎週書き続ける行為は多少の努力が必要ですが、自分の立場を明確にし、これまでの発言に責任を持つためには、やり遂げなくてはならないことだと覚悟しています。「幼児期の基礎教育」と「小学校受験」という一見矛盾したように見える二つのテーマを、「子どもの思考力」という視点で見ていくと、そこに大変意味のあるつながりが見えてきます。それを明確にしていくのが私のライフワークだと考え、日々の授業経験の中からテーマをさがし、ここまで書き続けることができました。40年間現場に立ち、これからあと何年授業の現場に出られるかを考えると、ある面「体力勝負」になってきたように思いますが、ともかく体力の許す限り現場にこだわり続け、実践者だからこそ見えてくる「子どもの思考過程」を、具体的に明らかにしていきたいと思います。500号達成まで、何とか頑張り続けて行いたいと思います。毎週お読みいただいている皆さまに、この場を借りて御礼申し上げます。現場からの生の声を受け止めていただき、それぞれの立場から、このコラムを活用していただければ幸いです。

さて、リーマンショックで経済的な打撃を受け、また東日本大震災による未曾有の経験をした今、小学校入試を取り巻く環境も大きく変わりつつあります。私がこのコラムを書き始めてから今日に至る8年間の中で、一体何がどう変わってきたのか、いくつかの視点で総括してみたいと思います。思いつくままに列挙してみます。

1. 高度経済成長の中で伸びてきた小学校を受験する人口が、2008年をピークに減り始めたが、数字上では、昨年その減少傾向に少し歯止めがかかったようにも見える。
2. 一方で、小学校受験においても、定員割れを起こす学校が出始めている。
3. 生き残りをかけて特色ある教育方針を打ち出し、すでに実現に向けて動き出している。
4. 入試問題が非常に洗練され、知能テストのように、問題をパターンで教え込む対策では対応できなくなっている。
5. ペーパー試験は量的には減少し、1枚1枚に学校側の想いが凝縮された質の高い問題作りがなされている。
6. 特に「考える力」と「コミュニケーション能力」が重視され、学力試験と行動観察の二つの側面で子どもを評価しようとしている。そこでは、自分で考え、自分で判断し、協力して一つのものを作り上げる行動力が求められている。特に行動観察では、何かができたかできなかったかではなく、将来の学校生活に必要な「レディネス」がどれだけ身についているかがチェックされている。
7. いわゆる教え込みの教育を明確に否定し、間違った準備教育を行う受験産業の在り方に、学校側が警告を発し始めている。

以前では考えられなかった動きが、小学校受験をめぐって起こりつつあります。私たちにとって最大の関心事は、入試で何が問われるのか、どんな学習をして臨めば良いのかということです。その点については、私の40年間の経験の中でも変遷を繰り返してきました。

(1) 知能テストが入試問題であった時代は、年長の夏休みから訓練すれば十分対応できた。
(2) 受験人口の増加で、ペーパー試験の枚数が増え、多いところでは20~30枚のペーパー試験を課していた学校もあった。その結果、準備教育が非常に過熱した。
(3) 受験対策で不適応を起こす子どもが増え、臨床心理の専門家から警告本がたくさん出された。それを受けて、一時期ペーパー試験が全くなくなった時代もあった。
(4) その後、6~8枚程度のペーパー試験と、行動観察・面接の3点セットで試験が行われるようになり、現在の試験形態が定着した。
(5) その後、次第に試験問題の内容が洗練され、「思考力」を問う極めて良質の問題が出されるようになった。その多くが、私たちが20年間かけて作り、世間に公表した「ひとりでとっくん」シリーズの中から出されている。

こうした時代の流れの中で、今小学校受験は大きな曲がり角に来ています。公立校が頑張り始めた今、私立(小学校)に通わせる意味が問われ、子どもたちを迎える学校側も、今までになく教育方針や試験の在り方について検討を始めています。その意味で、多くの矛盾を抱えていた小学校入試が改革され、受験勉強が幼児の成長をゆがめていくような間違った対策は、排除されていく時代になってきました。子どもを小学校に送り出す我々も、そうした学校側の動きをしっかり受け止め、受験に向けた学習が将来の成長に意味のあるものにするために、専門家として日々研鑚しなければなりません。商業主義的体質から脱皮し、将来を担う子どもたちの成長に意味のある基礎教育を実践しなければなりません。子どもを送り出す塾側と、子どもを受け入れる学校側が協力し、子どもにとって意味のある準備教育にするために、学校側に入試に関する情報公開をより一層促進してもらえるようお願いしなくてはなりません。

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