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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

一枚のペーパーを大事にするということ

第396号 2013/7/12(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年から始めた母親の勉強会も順調に回を重ね、7月11日(木)には、「第3回雙葉合格のための勉強会」を行いました。夏休みを控え、夏の学習課題を30項目掲げ、そのためにどんな学習をしたらよいのかについて、過去問を使った学習ボードによるトレーニング法を伝えました。こぐま会では、過去10年間に出された問題を「過去問集」として出版していますが、それ以前の過去問もデータとしてたくさん持っています。その過去問の中から典型的な問題を取り出し、実際の質問以外にも可能な予想問題を用意し、繰り返し練習してもらうようにしてきました。今回も典型的な入試問題をボード化したものを用意し、それを使った学習法を伝えました。

毎年学校側が作る問題の中には、とても素晴らしいものがあります。検討に検討を重ねた結果、今まで見たこともない問題に変化しています。問いかける趣旨は同じでも、問いかけ方によってまったく新しい問題に変化するのです。この点は、学校の先生方の発想に大いに学ぶべきことがあります。ですから、出題の意図を汲み取って、1枚1枚のペーパー問題を大事にした学習をしなくてはなりません。そこで考えたのは、これまで出された入試問題を使って別な角度から質問し、理解を深めようというものです。そこでの質問を、子どもの理解度に合わせて並べてあげれば、過去問がとても良い練習教材に変化します。問題はどんな設問を付け加えるかです。これは、子どもたちに接している現場教師でないと難しい面があります。なぜなら、間違える子どもたちを多く見ることによって、子どもたちはどこでつまずくかを良く知っているからです。つまずきの原因を探り当てていくことによって、何をどう練習すれば良いかが見えてきます。

私が作った「ひとりでとっくんシリーズ」は、そうした現場の経験を反映して作った問題集ですから、100冊作るのに20年間もかかりました。その私たちの問題集を真似て、同じように何十冊もの問題集を短期間で作り、販売しているところがあります。物まねは物まね以上の成果は出ませんし、オリジナルなものは一つもありませんから魅力的な問題集にはなりえません。例えば、「一対多対応」という単元を掲げて作ってある問題集は、すべて物まねであると断言できます。なぜなら、「一対多対応」という言葉は、私が問題集を作る時に作った造語で、辞書を引いても出てきません。「一対一対応」は、学問的にも使われる概念ですが、「一対多対応」という言葉は、私が「ひとりでとっくん」を作る際に作った造語です。それを、さも一般化されていることばと勘違いしたのか、その題名を問題集につけてあるところが多く見受けられます。タイトルをコピーしているということは、当然中身もコピーしているということです。お隣の韓国や中国をコピー社会だと批判する日本人は多いと思いますが、実は、この幼児向けの問題集では、こぐま会の問題集をコピーした商品が多数出回っているのです。また、多くの受験塾でこぐま会の許可を取らず、「ひとりでとっくんシリーズ」をコピーして教室で使用し、オリジナルな教材だと保護者をだましている塾がなんと多いことでしょう。悪質なところでは、こぐま会の名前を消し、コピーし、「自分たちのオリジナル教材だ」と言って販売しているということですから、お隣の国を批判できるほど、日本は知的財産が守られている国ではありません。

横道にそれましたが、本題に戻ります。夏休みは、過去問を使いそこで問われた質問だけでなくいろいろな角度から質問を考え、1枚のペーパーをより深く理解できるようにする学習をお勧めします。私がいつも主張しているように、大量のペーパーを機械的にこなす学習ではなく、「1枚のペーパーを大事にする学習」とは、例えば次のように学習をするということです。

【設問】
動物たちが飛び石を渡って、向こう側の森へ行こうとしています。
(1) ネズミが今いるところから、飛び石を1つずつ6回跳んだらどこに着きますか。着いた飛び石にをつけてください。
(2) ネズミが6回で着いた場所に、ウサギが飛び石を1つ飛ばしで跳んで行ったら、何回で着くことができますか。その数だけブドウのお部屋にをかいてください。
(3) リスが2つ飛ばしで飛び石を跳んで、向こう岸へ渡ります。何回跳んだら着くことができますか。その数だけリンゴのお部屋にをかいてください。

この問題は、2003年度に雙葉小学校で出されたものです。この学校では、この問題がきっかけとなり、その後形を変えて、小学校で学ぶ「旅人算」の考え方を問う問題にまで発展していきました。これに次のような質問を加えることによって、より深く思考力を高める練習が可能です。

関連質問例
(1) リスは2つ飛ばしで向こう岸にわたり、すぐにまた2つ飛ばしで今ネズミのいるところまで戻って来ます。はじめから数えて何回跳ぶことになりますか。その数だけ、ブドウの部屋におはじきを置いてください。
(2) 先にネズミが1つずつ3回跳んだあと、ウサギが1つ飛ばしで追いかけます。それを見たネズミは、1つずつ跳んで逃げようとしますが、どこかで追いつかれてしまいそうです。どこで追いつかれてしまいますか。そこにおはじきを置いてください。
(3) リスが向こう岸に2つ飛ばしで渡ったあと、ウサギも向こう岸に跳んで行きます。でもリスも、ウサギがスタートすると同時にこちらに戻って来ます。それぞれが2回跳ぶと、リスとウサギの間に飛び石はいくつ残ることになりますか。
(4) ウサギが向こう岸に着いてこちらに戻ってくるのを見て、ネズミも向こう岸に向かいました。ウサギとネズミはどこかの石で出会いますが、それは、ウサギが最初にスタートしてから何回目ですか。その数だけ、リンゴの部屋におはじきを置いてください。

こうした関連問題をただたくさんこなすだけでなく、いつも必ず答えの根拠を説明させてください。1枚のペーパーを大事にするということは、違う質問をたくさん用意するだけでなく、答えが合っていても間違っていても、考えの根拠を説明させることです。その過程で子どもがものごとをどう考え、どう解決しようとしているかがつかめ、そこから有効な指導法が見つかるのです。

このように、たくさんの量のペーパーをこなす学習ではなく、1枚のペーパーを使い、予想される問題等を練習することによって、より深く理解できるようになり、その力が応用力になっていくのです。1,000枚のペーパーをこなすことより、その中で重要と思われる100枚のペーパーをこのような感覚で掘り下げていけば、効果的な学習が短時間でできるはずです。学習時間が取れなくて、悩んでいる多くの働くお母さんにこそ、こうした学習法をお勧めしたいと思います。

考える力の育成は、一つの問題をどれだけ深く掘り下げて学習したかによって決まります。自立した思考を育成するためにも、量より質を重視した学習をすべきです。今、入試で求められているものは、自ら試行錯誤して獲得した「転移する学力」なのです。決して教え込まれた「解く技術」ではありません。このことをしっかり肝に銘じ、夏休みの学習を効果的に進めてください。

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