ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

受験だからこそ「まともな幼児教育」を

第340号 2012/5/25(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 秋の入試まで、残すところあと半年たらずとなりましたが、毎年学校説明会が始まるこの時期から、来年受験される年中児を持つ方々の受験意識が高まり、準備対策が始まります。こぐま会でも、「ゆりクラス」への入会が増えるのもこの時期からです。4月29日に行った「第8回 こぐま会女子校合格フェア」でも「年中から始める小学校受験対策」と題したセミナーを行い、年中からの正しい受験対策のあり方をお伝えしました。その後、多くの年中児の保護者の方と入会面談をしていますが、小学校入試の現状を正しく理解せず、間違った噂話で右往左往している方々があまりにも多いのに驚いています。

「年中から始める小学校受験対策」セミナー内容(4月29日実施)
1. 入試の現状と課題
A) 受験者の減少
B) 定員割れの学校側対策・・第一志望かどうか
C) 併願の難しさ・・・面接で重なる
D) 合否判定…まだまだ関係者有利の学校あり
E) 学力試験・行動観察・面接・願書
F) 少ないペーパー・工夫された問題
2. どんな能力が求められているか
A) 入試問題の変遷
B) 現在の入試の傾向
3. 間違った受験対策にならないように
A) 間違った受験対策はなぜ起こるのか
B) 学校は訓練された子どもは求めていない
C) まともな幼児教育こそ、合格への近道
D) 事物教育と螺旋型系統学習の実践

そもそも小学校受験は、学校側からの情報が未公開です。最近は少しずつ入試に関する情報を伝えるようになりましたが、まだまだ本当のところは隠されたままです。その上、幼稚園や保育園には教科書がありません。「教科書はないのに、入試問題は存在する」といった、まったく変則的な入試です。そんな状況ですから、私たちが発行している「ひとりでとっくん365日」が教科書代わりに使われているのも当然です。もう一つ問題なのは、日本の幼稚園や保育園は遊び保育が中心で、意図的な学習活動はほとんどなされていません。ですから、幼児期の教育方法も確立されておらず、小学校以降の教え方と全く同じ発想、つまり、テキストと黒板があれば教育できるし、何もわからない子どもたちには、教え込む方法しかないと考えている現場指導者がほとんどです。こうした背景があるからこそ、学習のはじめから「過去問」を素材としたペーパートレーニング、いわゆる「暗記注入教育」が当たり前のように行われているのです。その上、「受験教育は特別な教育だ」と洗脳されている方々が大勢おり、その結果、間違った指導が支持されているのです。

教科書もなく、情報も未公開なところに素人教師集団が存在し、「合格させるには、どんな方法を使ってもかまわない」という、教育の原則に照らしても全くめちゃくちゃな論理がまかり通るのです。その上、生徒獲得競争が激しさを増し、合格者の水増し宣伝が行われ、不当景品表示法に抵触するような違法行為がはびこるのです。見えない教育成果を見えるようにするために、合格者数を偽って発表したり、カリスマ教師を仕立て上げ、特別な教育が合格につながると宣伝したり、教育的には何の意味もない、親を同席させて子ども同士を競わせる授業を公開したり・・・受験対策というくくりの中からちょっと外に出て、冷静に考えてみればおかしなこと、普通の感覚ではあり得ないことを、みんな必死で行っているのです。すべて、判断基準を保護者が持てない特殊な受験だからこそ起こる、おかしな現象なのです。やはり、情報が公開されていないことが諸悪の根源なのでしょう。

最低でも1年間、長い方で2~3年かけて小学校に合格させるための準備教育に取り組んでいます。子どもだけでなく、保護者も巻き込んだ受験対策です。朝から晩まで受験のことを考えて生活し、学習し、またご両親が子どものことをめぐって、話し合う時間も増えてきます。時間もお金もかけ、ともかく「合格」をめざして家族一丸となってがんばります。その努力たるや、私たち教師の想像をはるかに超えるものです。だからこそ、子どもにとって意味のある「まともな幼児教育」を実践していただきたいのです。親子が一丸となってがんばる受験は、この小学校受験をおいて他にないと思います。その想いを、意図的な幼児教育の動機づけとし、将来の学力の基礎をしっかり固め、子どもが自らの意思で喜んで学習に向かう姿勢を身につけていくことができれば、こんなに素晴らしい学習の動機づけはないと思います。しっかりとした教育理念と、子どもの発達に見合った教授法を持ち、その内容と方法が保護者に公開され、子どもの成長のために教師と保護者が信頼関係を築くことができなければ、一番の被害者は子ども自身ということになるのです。そうならないために、

1. 教育理念がしっかり示されているか
2. 正確な入試分析と入試情報が常に提供されているか
3. 授業意図に即してオリジナルな教材が準備されているか
4 年間の指導方針が明確に示され、家庭学習の課題が常に提示されているか

こうしたことをしっかり把握した上で、子どもが通う教育機関を選択する必要があります。一番いけないのは、塾の掛け持ちです。授業の進め方や指導法が全く違う塾を掛け持ちしたら、一番混乱するのは子ども自身です。通う塾を信頼し、1年間その塾の方針に沿って子どもを育てなければ、良い結果につながりません。噂話に踊らされ、いくつもの塾を掛け持ちすることは、絶対に避けなければいけません。それは、最低限の親の責任です。最近相談に見える多くの方が、「今通っている教室がペーパートレーニングしかしないので、これでよいのか心配でならない。本当に子どもに身についているのかどうかわからない」・・・そんな相談が増えています。指導者より保護者のほうがどれだけまともか・・・いつもお話を聞きながら感じることです。

受験だからこそ、特別仕立ての「教え込み教育」ではなく、受験だからこそ、まともな教育で考える力を身につけるようにしてください。一歩間違えると、教え込みの準備教育のために学習嫌いな子どもになり、入学した途端、すぐに学習意欲をなくしてしまう「燃え尽き症候群」を生む結果になりかねません。そんな受験対策にならないよう、保護者の皆さんの賢い選択が問われています。

PAGE TOP