ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「室長のコラム」

言語領域の出題に、新しい動き

第329号 2012/2/24(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 将来の国語科につながる言語領域の入試問題は、数や図形と同じく重要視されています。中でも「話の内容理解」は、ペーパーがあるなしに関係なく必ず出されると考えておく必要があります。「聞く力」がすべての学科の土台になると考えているから当然です。問題は、この「話の内容理解」以外に出される課題です。以前は、話す力を見る意味で「お話づくり」が、もう一つの柱でしたが、テストの方法自体に工夫が必要なため、最近は「言葉の理解」に関する問題がたくさん出題されています。その内容を、2012年度の主要校での出題で見てみると、以下のようになります。

(2012年度主要校の入試における「言葉の理解」に関する問題)
しりとり 2枚
絵にかいてあるもののまん中の音を使って、言葉をつなげてください。
(横浜雙葉小学校)
しりとり(3音の条件)
カラスからはじめて、ゴリラで終わるようにしりとりで線結びしてください(青いクーピー)。
3つの音でできているものだけを使いましょう。
(カラス→スイカ→カメラ→ラクダ→だんご→ゴリラ)
(聖心女子学院初等科)
一音一文字
先生が手をたたいた数(3回)の名前を言わなかった子の顔にピンクのをつけてください。
女の子1 女の子2 男の子 
トマト はくさい レタス 
※先生が子どもの顔が描いてあるプラカードを見せて「この子はトマトと言いました。この子ははくさいと言いました。この男の子はレタスと言いました。おかしい子は誰ですか」
解答欄にはプラカードと同じ顔が描いてある
(東京女学館小学校(一般入試))
同尾音
上の絵と下の絵で、同じ音で終わるもの同士を線で結びなさい。
(白百合学園小学校)
言葉つなぎ
上から2番目の絵をつなげて、言葉つなぎをします(例題あり)。では、空いているところには何が入ればいいか、下から選んでそれぞれの印を描いてください。
(光塩女子学院初等科)
半濁音・促音
ペーパーに「ラッパ、切手、プリン」などがいろいろ描かれている。その中で、「パ、ピ、プ、ペ、ポ」が付くものに、「ッ」が付くものに、両方付くものに◎を付ける。
 (東洋英和女学院小学部)
しりとり
1枚目は練習。2枚目が本番。
「ラッパ」から始まって次に続くものは3つの中から選んでをつける。それが4個ほど続いている。最初は「ワンピース」。
 (東洋英和女学院小学部)
一音一文字
  • の描いてあるお部屋(魚・さんま)の絵の最初の音と同じ音で始まるものに
    をつけてください。
  • の描いてあるお部屋(にんじん)の絵の最後の音と同じ音で終わるものに
    をつけてください。
  • の描いてあるお部屋(すずむし)の絵と3番目の音が同じものに
    をつけてください。
  • 名前のどこでも良いので、「か」の音がつくものに
    ×をつけてください。
(立教女学院小学校)
しりとり
あいている所に入る言葉を選ぶ。(ひらがなを読んで答える。)
(宝仙学園小学校)
動詞の理解
この絵の中で「かける」ものにをつけてください。
(横浜雙葉小学校)
同音異義語
※ハシ(橋と箸)、アメ(雨と飴)、メ(目と芽)、クモ(雲と蜘蛛)、シマ(縞と島)の絵が上下に描かれている。
上と下に並んでいるもので、同じ言い方をするもの同士を線結びしてください。
(白百合学園小学校)

こうした言葉の理解に関する問題を見ていくと、入試で一番多いのは、やはり「しりとり」と言えるでしょう。この課題は、私たちが基本クラスで学習している「一音一文字」「同頭音」「同尾音」「しりとり」という流れの中でとらえておくのが一番良いと思います。すなわち、こうした問題の一番の基礎は、日本語の文字指導の基礎にある「一音一文字」の考え方であることは明らかです。「いくつの音でできているか」「最初は何の音か」「最後は何の音か」、そして前の言葉の最後の音を次の言葉の頭に持ってくる言葉遊び・・・それが「しりとり」になるわけですから、しりとりの基礎は「一音一文字」の考え方にあるわけです。しかし、子どもたちにとって「しりとり」は、普段からよくやる「遊び」ですから、考え方の根拠が何であるかを意識しなくてもできてしまう「言葉遊び」です。ですから、次へつなげていくだけの「言葉遊び」ならば何の問題もなくできるのですが、それが入試問題になると、「しりとり」のルールが問題になるため、出題内容は多岐にわたっています。次へのつながりを考えて空欄を埋めたり、枝分かれするもののうち正しいものを探したり、時には逆に戻ったりと、いろいろ工夫された問題がつくられています。つまり、約束を論理的にとらえられるかどうかということが問われています。これが子どもたちにとって難しい問題として存在しているわけです。しかし、そうした流れの中で、最近は言葉の一番最後の音を次の言葉の頭に持ってくるいわゆる『「しり」とり』、ではなく、後ろから2番目の音を頭に持ってきてつないだり、真ん中の音で始まる言葉をつないだり・・・・といろいろ変化してきています。つまり、単純な言葉遊びのしりとりが変化し、一音一文字の考え方を絡めた「考えさせる言葉つなぎ」に変化し始めているのです。無意識に行ってきた「しりとり」から、「いくつの音でできていて、どこに何の音がつくのか」という「文字指導」の基礎としての一音一文字の理解が、より鮮明になってきたということです。

この「一音一文字」の理解に関する問題は、今や行動観察でも使われることになり、小学校入試では欠かせない重要な課題になりました。しかし、この一音一文字に関する問題も、20年近く前にはほとんど出されなかった問題でした。こぐま会の基礎教育では設立当初から指導してきた内容ですが、その当時は入試問題には出ていなかったため、保護者の一部の方々から、「入試に出ない問題も学習するんですか?」とよく質問を受けたことを覚えています。しかし私は「日本語指導の基礎の考え方なので、必ず出題されるから・・・」と言って納得してもらったことを思い出します。今、入試問題が大きく変わろうとしています。どのように変わるか・・・それは、この「一音一文字」の課題に象徴されるように、「幼児期の基礎教育」として大事な内容は、全てが入試問題になるということです。昔のように、教え込みのパターン学習で対応できた「知能検査的問題」は、今後小学校の入試問題として出題される事はまずあり得ないでしょう。私たちが「ひとりでとっくん」100冊で表現したような幼児期の基礎教育として意味を持つ問題が、小学校で学ぶ内容と関連付けながら、いろいろ工夫されて出されていくはずです。

つまり小学校の入試問題は、今や極めてまともな幼児期の基礎教育と連動し、子どもたちの考える力を見ようとしています。ですから、知能検査的な問題をトレーニングしたりパターン化して教え込んだりする準備教育が、現実の入試に対応できなくなってきているのです。ましてや、ペーパートレーニングだけで子どもの認識を育てようとする準備教育は、子どもの理解の道筋からしても無理があり、大切な幼児期の教育方法としては言語道断だと言わざるをえません。

PAGE TOP