週刊こぐま通信
「室長のコラム」常識問題をどう解決するか
第292号 2011/5/13(Fri)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

最近の小学校入試において、「常識問題」の出題が増えています。論理が求められる難しい問題が工夫される一方で、やさしく基本的な常識問題が並列されて出題されると、一体どんな意味があるのかと考えてしまいます。入試問題を領域別に集計してみると、「常識問題」が常にランキング上位に位置していることがわかります。学校側は、一体この常識問題で何を見ようとしているのでしょうか。小学校に入ってから学ぶ教科のうち、以前は社会・理科と別れていたものが、現在低学年では「生活科」として統合されています。その生活科の基礎を問うと考えれば何の矛盾もないわけですが、どうもそれだけではなさそうです。
そんな疑問を一緒に考える連続セミナーを5月12日(木)に行いました。参加された皆さまに、この10年間に出された「常識問題」をまとめた資料集をお配りし、その内容を分析しながら学校側の出題意図を考えてみました。
- ひまわり会 連続講座
第16回 「入試における常識問題の内容とその対策」 -
1. 常識問題がよく出される背景(ア) 子育ての現状を探る
(イ) 年相応の育ち・理解力が身についているか
(ウ) 生活科(理科・社会)につながる経験
(エ) 知識より体験2. 常識問題の分類法(ア) 社会的常識
(イ) 理科的常識
(ウ) 一般常識3. どんな内容が入試で問われているのか最近の入試問題から典型的な問題を分析する4. どんな問題が子どもにとって難しいのか(ア) 経験を踏まえない、図鑑的知識として教え込まれた場合
(イ) 常識問題の思考力を絡めた問題5. 常識問題対策 夏休みの有効活用常識問題ハンドブックの活用・クイズ形式で楽しく
常識問題として括られるものを整理すると、3つに大別できます。その一つは社会的常識問題、二つ目は理科的常識問題、そしてもう一つは、一般常識問題です。その内容をもう少し詳しく見ていくと、次のように整理できます。
- 社会的常識問題
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(ア) 社会的弱者に対する理解(手話、盲人用プレート、信号音声他) (イ) 公共の場でのルール・マナーの理解 (ウ) いけないこと、悪いことをしている子とその理由 (エ) ~のような時どうすれば良いか(問題解決) (オ) 挨拶と言葉 (カ) 食事のマナー(箸も持ち方、ご飯を食べる時の姿勢、配膳など) (キ) 標識の意味 - 理科的常識問題
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(ア) 動物の理解 生まれ方、住んでいる場所、食べ物、成長過程 (イ) 植物の理解 成長の順、できる場所(特に土の中)、種の理解 (ウ) 切断面 切り口の形 (エ) 季節の理解 行事、花、食べ物、季節の順、月日は何の日 (オ) 鏡映像 池への映り方、鏡の中にどう映るか (カ) その他 浮き沈み、風向き、駒の回転、コップを斜めにした時の水面 - 一般常識問題
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(ア) 昔話 順序、登場人物、物語に関係あるもの、場面同士のつなぎ (イ) 数え方・数詞 1・2・3と一つ・二つ・三つ、~人、~本、~枚、~足、~膳 (ウ) 音の理解 生活音、自然音、鳴き声、楽器 (エ) 紐の結び目 両端を引っ張ったとき結び目ができるかどうか (オ) 料理とその材料 料理の名前とその材料 (カ) じゃんけん どうしたら勝つか、どうしたらあいこになるか (キ) 童謡 歌の中に出てくるものや生き物について
セミナーでは入試問題一つ一つについて詳しく確認しましたが、易しいものから難しいものまで、多岐にわたっています。しかも、社会的常識問題においては必ずしも正解が一つとは限らない問題もあり、そうした問題の場合は、必ずと言っていいほど理由説明が求められます。では、口頭試問の問題とも関連のあるこうした「常識問題」をどのように学習したら良いのでしょうか。社会的常識問題も理科的常識問題も、どちらも自らの経験を土台に置かないと、細かいことが身に付きません。図鑑的な知識や教え込まれた知識だけでは、解決できない問題が最近多く見られます。ですから学習の基本としては、まず経験させることが大事です。特に社会的常識問題は、普段の生活の中で経験し解決して身につけていくべきものです。また、理科的常識問題も、都会に住んでいる子どもたちに「すべて経験しなさい」と言っても無理ですが、それでも極力足を運んで実際に経験するチャンスをつくることが大事です。すべてを経験できないまでも、いくつかの経験を重ねていくと図鑑的な知識も整理されていくはずです。最初から図鑑を見て記憶し、何の経験も媒介としないような身に付け方では、工夫された問題には正確に答えられません。自分で観察したりするなかで、疑問に思ったことを図鑑で調べてみる・・・というような学習の仕方が有効です。
出題する学校側も、知識としての常識問題ではなく、経験としての常識問題の理解を求めているはずです。学校側が見たいのは、豊富な知識ではなく、家庭生活で子どもたちがその年齢にふさわしい経験や活動をしてきているのかどうかという点です。だからこそ、家庭生活の実態がこうした常識問題を通して見られてしまうのです。そのように考えて対策をとる必要があります。その対策には時間がかかります。夏休みに入る前に、どんなことが入試で問われているのかをよく知っておけば、夏の生活の中で学ぶチャンスはたくさんあるはずです。常識問題の整理は、夏休みの大事な学習課題として受け止めてください。