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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫教育を考える(2) 教科前基礎教育という発想

第278号 2011/1/28(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 遠山啓氏が「歩きはじめの算数」(1972年・国土社刊)で提案した、「原数学」「原国語」「原音楽」といった「原教科」の内容をどう考え、工夫したら良いのか・・・・私自身は常にそのことを考えながら、教室での指導に当たってきました。独自のカリキュラムをつくることについては、正直なところ大変苦労しました。この40年間を振り返ってみると、メソッドを確立するまでにさまざまな実践や教育課題に学びつつ、教室での指導を通して独自に指導内容を系統化してきました。参考にし分析に値するものとして、次のようなものを取り上げてきました。

 1. 知能検査の問題
 2. 日本の幼稚園で意図的に行われてきた指導内容
 3. 民間の幼児教育機関で行われてきた指導内容
 4. 諸外国の実践記録
 5. 小学校低学年の学習内容
 6. 小学校高学年の文章題で求められる思考法
 7. 小学校入試問題

将来行われる「教科学習」の基礎ですから、算数や国語につながっていくものが中心になることは避けられません。そこでまず「原数学」の内容となりそうなものをピックアップし、それを教室で実践してきました。また、日本語に対する最低限の理解として、「話す」「聞く」を中心とした課題も考えました。その結果、「未測量」「位置表象」「数」「図形」「言語」の5領域の柱を立て、基本となる学習内容を確立し、子どもたちの取り組みを見ながら、学ぶ内容の修正を繰り返してきました。その具体的内容を、拙著「3歳からの「考える力」教育」(講談社)において明らかにしてきましたが、子どもの思考過程にかかわればかかわるほど、私たち大人の発想法と子どものそれとの違いをたくさん見てきました。そうした経験を生かし、多くの教具・教材を生み出してきたのです。中でも「ひとりでとっくんシリーズ」の100冊の問題集は、幼児の思考を育てる「教科前基礎教育」の中身として、我々が独自に開発したワークブックです。その内容を見ていただけば一目瞭然ですが、小学校で学ぶ「たし算」「ひき算」の計算や、文字の読み書き等を中心とした内容にはなっていません。教科学習の前ですから、教科の中身をそのまま下ろしても意味はないのです。今、多くの幼児向けワークブック・通信教育の中身がそうであるように、小学校で学ぶ内容を易しく・楽しくゲーム感覚で行おうとしても、そのことによって「考える力」を育てることはできません。今マスコミで話題になっている幼児教育法は、その内容のほとんどが、小学校低学年の焼き直しです。そんなものが流行るほど、幼児期に行うべき学習内容の議論が、文科省も含めどこにもないということです。現場からの発想がないし、それ以上に現場での先駆的な実践がないということです。

先週のコラムでも述べたように、幼児期の基礎教育は、小学校で学ぶ内容を易しくして下ろすのではなく、全く新しい視点で考えるべきです。その視点こそ「教科前基礎教育」の発想です。子どもたちの生活や遊びの中にある学ぶチャンスを生かし、教室で再現し、その中身を意識させ将来の学習の基礎になる経験を積ませることです。決して教え込むのではなく、事物に働きかけ、試行錯誤する時間を最大限保証しながら、子どもたち自らが発見し、工夫し、そして自ら考えるチャンスをたくさん作ってあげることです。幼児期の基礎教育において、将来を見据えた新しい発想の教育内容が確立されれば、今度は、下から上に押し上げる発想で、現在の小学校で学ぶ内容を別な視点で検証できるはずです。その結果、まったく新しい指導の組み立てができると予想しています。それこそが、私たちがこれから取り組まなくてはならない「幼小一貫教育」の中身になるはずです。

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