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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫教育を考える(1) 下からの積み上げを

第277号 2011/1/21(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 幼小一貫教育や幼小連携が叫ばれ、さまざまな議論や実践がなされる中で、幼児期の子どもたちの学習環境が大きく変わろうとしています。日本における幼児教育の歴史を考えた時、画期的な試みになるだろうと期待している1人ですが、一方で、また裏切られるからあまり期待しない方がよいという人もいます。期待を裏切られるとすれば、今回の新しい指導要領のように、学ぶ内容を上から下すという発想です。5年で行っていたものを3年に下ろす、3年で行っていたものを2年に下ろすという発想です。ですから、小学校1・2年で行っていたものを幼児期の子どもたちに学ばせるという発想になります。教科の系統性やそこから派生する学ぶ順序は変わりませんから、下に下ろすという発想は決して間違ったやり方ではありません。しかし幼児期の基礎教育の場合、小学校で行っていたものを下ろすという発想では子どもたちの考える力を育てることはできません。何よりも、教科書とノートがあれば授業が成り立つという教育法そのものの発想を変えなくてはだめです。

幼児期の基礎教育を考える際に、私たちが念頭に置いてきたのは次のような点です。
  1. 子どもたちの「思考力」はどのように成長していくのか、その発達段階をしっかり押さえる
  2. 空間認識や数の概念・図形感覚はどのように育っていくのかをしっかり把握する
  3. 実際に、小学校ではどのような考え方で教科内容が組まれているのかを知っておく
  4. 低学年の子どもたちはどこで壁を感じ、つまずくのか
  5. 幼児たちはこれまで、生活体験を通して何を学んできたのか
  6. 遠山啓氏が提案した「原数学」「原国語」「原音楽」・・・総じて「原教科」をどのように考え、受け止めたらよいのか

こぐま会では、こうしたことを念頭に置き、教室での実践を通して「教科前基礎教育」の内容を確立してきました。それは決して、小学校で学ぶ内容を同じ形式で易しくしたものではありません。子どもたちの生活や遊びにテーマを求め、意図的な教育をしなくても子どもたちが自ら学んできている、その事を意識化させ、より発展性のある内容へと高めながら、事物を使った意図的な教育として組み立てていくのです。上から下への発想ではなく、下から上への発想で学ぶ内容を構築してきました。そこで見られる子どもたちの理解力・発想法などを踏まえていけば、1年生から使用する教科書すらも違った発想で作り直すことが可能です。いわば、下から上への変革です。幼小一貫教育の中身はそのような発想で組み立てられなくてはなりません。小学校のたし算・ひき算や、読解を幼児期の子どもたちの学習課題にしたら、今まで以上に学力差が顕在化してしまいます。形式を教え込む教育は、それを受け止めるレディネスがあるかないかによって、年齢が下がれば下がるほど理解力の差を生み出しやすいからです。私は、これまでの実践経験を踏まえて考えた時、年中から小2までの4年間を幼小一貫教育期間と定め、その内容を、下から上への積み上げの発想で学習する中身を構築すべきであると考えています。これまでの経験を生かし、そのプログラム作りに着手しました。

4月から始まる新しい指導要領を見ると、どの教科も今の子どもたちにかけている面を強化するような内容になっています。例えば、算数科においては、ゆとり教育で先延ばしにされた学習内容がまた元に戻ってきました。それどころか、我々が昔から指摘してきた「計算はできるけれども文章題になるとできない」という点を反省し、「式による表現」という項目が「数量関係」の学習の中に明確に位置づけられるようになりました。計算だけでなく、話を聞いて式に立てたり、文章を読んで立式し、問題を解いていくということです。しかし私たちは、それだけでは足りないと考えています。式による表現の逆であり、私たちが「作問」と言ってきた内容、つまり式を見てお話をつくるという方法です。6+3 6-3 6×3 6÷3の意味の違いがわかるかどうかをお話づくりを通して確かめるというものです。ありふれた生活行為を数の変化として見た時、幼児期の生活においてすでに四則演算の経験はしています。それにもかかわらず、なぜ3年間もかけて学ばせなくてはならないのか。1年でたし算ひき算、2年でかけ算、3年でわり算を学んでいるのが今の教科書による指導ですが、私は、幼児期の数の教育を具体物を使ってしっかりやれば、小学校1年生の段階で四則演算の考え方と、簡単な計算は全てできると考えていますし、実際にそうした指導をしています。そうした教科書的な指導を排除して、子どもの発達に合わせた指導ができるのも、下から上への積み上げがあってこそ・・・と考えています。計算方法を教え込んだり、数字だけを拾っていけばできてしまう文章題を課すのではなく、自分たちの生活の中におけるさまざまな数の変化をとらえさせ、考えさせることによって、四則演算の基礎はでき上がっていくのです。考え方が理解できれば、形式(数式)を教えることにはそう時間はかかりません。1年生の段階で四則演算全てができることによって、子どもたちがとらえる数の世界が一挙に広がり、同時に考える視点が広がることを見てきました。

上から下へ下すのではなく、下から上へ積み上げていくことによって、新しい教育プログラムができ上がることを確信しています。

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