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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏の学習課題(4) 最新の出題傾向を踏まえた学習を

第253号 2010/7/23(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 夏休みは、過去問や難問に挑戦するもっともよい時期です。夏休み前までに基本と応用の学習を終え、夏以降、実戦的なトレーニングをしなければ秋の入試に間に合いません。その際大事なことは、受験する学校の問題だけでなく、他校の問題をよく見ておく必要があるということです。ある学校で出された新しい問題が必ず他校に波及するからです。40年近く入試問題の変遷を見てきた私にとっては、現在の入試問題がいかに工夫され、「考える力」を求めている問題かがよくわかります。しかも、ここ5年間で出題傾向に大きな変化が見られます。この点をしっかり把握し、効果的な学習対策をとる必要があります。そこで今回は、家庭学習の参考のために新しい動きを各領域別にお伝えします。

(1)未測量領域では、シーソーを含む「関係推理」の問題が良く出されるようになってきています。従来はシーソーが中心でしたが、最近では「話の内容理解」の中に関係推理の問題が入り込み、私たちが今まで「言葉による関係推理」と言ってきた問題が増えています。また、シーソーの問題も相変わらず出されていますが、場面の数が増えたりつりあいの場面が加わったりと、以前と比べると相当工夫され、問題が変化しています。また、置き換えを伴う「つりあい」の課題も増えてきましたが、この課題はシーソーによる関係推理とは区別し、数における「一対多対応」の応用問題としてとらえておくことが大事です。AとB、BとCの関係からBを仲立ちとしてAとCとの関係を考える問題が子どもたちにとって難しいのですが、この「置き換え」の発想をどう理解させるかがポイントです。

(2)位置表象の領域は、昔から「右手 - 左手」に関する課題が入試問題の中心でした。その中でもよく出されていた課題が「四方からの観察」です。ひとつのものを4つの違う場所から見た時の見え方を推理する問題ですが、最近はその4つの地点に加え、上から見たらどう見えるか、下から見たらどう見えるか(透き通った板の上に乗せたつみ木を持ち上げて下からのぞく)など、「四方からの観察」が「六方からの観察」になりつつあります。その「四方からの観察」に代わって最近よく出されるのが「位置の移動」です。もちろん昔から「地図上の移動」に代表される位置移動はありましたが、それほど多くはありませんでした。それが最近では、「地図上の移動」だけでなく「方眼上の移動」「すごろく移動」「飛び石移動」「回転位置移動」など、移動に関する問題が多く出されています。作業を伴って解決しなくてはならない問題が多いため、子どもたちにとっては厄介な問題です。

(3)数領域の問題もいろいろ変化しています。数える基礎となる「分類計数」や「同数発見」「数の多少」等も全くなくなったわけではありませんが、将来の四則演算につながる「数の増減」や「一対多対応」などの問題が頻繁に出され始めています。特にかけ算の考え方につながる「一対多対応」の問題は複合問題になりやすく、また、シーソーのつりあいや交換の問題にも影響しているため、考え方をしっかり身につけなくてはいけません。また、一場面の絵を使っていろいろな設問を工夫する学校が増えています。また、「話の内容理解」で問われる数の問題は、従来は数を暗記しておけばそれでよかったのですが、最近の問題は数の操作をしなくては答えがでてこないようになっています。お話を聞きながら数の変化をとらえさせるには「暗算能力」を高めるしか方法はありません。

(4)図形領域の出題は、これまで半分以上が「図形構成」「図形分割」でしたが、様子が少し変わってきています。従来から図形課題で一番難しいのは「線対称」と「重ね図形」だと分析してきましたが、その一番難しい課題が図形領域の問題として数多く取り上げられるようになりました。「線対称」は、折り紙を使った課題と半分に折ったときちょうどぴったり重なるように残り半分を描く課題の2つですが、学校側がいろいろ工夫し、いろいろなタイプの問題が出始めています。また「重ね図形」は、透き通った紙の上に描かれた形や線を重ねるとどうなるかという問題ですが、設問方法が2通りあるため、問題が難しくなっています。そのまま上下に重ねる場合と、半分に折って重ねる場合です。そのうえ質問形式として、選択肢から選ぶ場合と自分で描いて表す場合とがあります。「重ね図形」も「線対称」同様、いろいろ工夫された問題が数多く出され始めています。

(5)言語領域の出題は相変わらず「話の内容理解」「お話づくり」「言葉の理解」の3つですが、特に目立つ変化は、話の内容理解の質問事項が多様化したという点です。絵本を使ったり、オリジナルな長い話を使ったりと・・・その方法はまちまちですが、質問の変化に注目してください。また、言葉に関する出題も多様化しています。「同音異義語」など、生活の中で行為を伴って学習するチャンスを活かしてください。

(6)以上の5つの領域以外での新しい傾向として、常識問題がかなり細かくなってきたこと、手先の巧緻性に関する問題が重視されていること、そして、行動観察が「自由遊び」中心になったことなどがあげられます。

学内の教育方針が変化したり、在籍する今の子どもたちに欠けているところがはっきりわかったりすると、入試問題も変わります。また、校長先生が変わると2年目から校長の考え方が前面に出て、入試問題が変化することもあります。こうした要因を抱えながら、今確実に起こりつつある入試問題の変化は、「教え込まれた能力では将来伸びない」「物事に働きかけ、そこから関係性を見つけたり法則性を見つけたりする考える力が、将来の学力の基礎になる」と、学校側がはっきりとした学力観を持ち始めたことによるものです。本物の学力を学校側が求め始めたということでしょう。なぜ雙葉小学校で出された問題が他校に波及していくのか・・・この一点を考えただけでも、今の学校が求めている学力が何であるかははっきりしています。何の脈絡もなくただペーパーをたくさんこなすだけの学習は、今学校側が求めているものとは逆な方向を向いた入試対策だといえるでしょう。

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