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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

入試直前に起こる困ったこと

第217号 2009/10/9(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 願書の提出も終わり、都内ではすぐに面接が始まります。これから入試本番まで、心と体の健康管理に注意して、一番良い状態で試験を迎えなくてはなりません。その意味でご両親のこれからの舵取りが何よりも大事です。

毎年、この時期になると不安を抱えたお母さんの相談が急に増えてきます。相談の内容はまちまちですが、「このままで合格できるのか」といった不安が圧倒的に多いのです。学力に対する不安、行動面に対する不安、そうしたことが一挙に噴き出してくるのでしょう。受験の合否に「絶対」はありませんし、特に小学校受験は学力試験のみで決まるわけではありませんから、予測がつきません。学力試験では満点近くとれたのに、行動観察でどんなグループに入って活動したかによって、個人の評価も違ってくるといったように・・・不確定の要素がたくさんある点が小学校入試の特徴かもしれません。だからこそ、お母さんも必死になって準備するのですが、その不安や焦る気持ちが決して良い効果をあげておらず、かえって悪循環を繰り返してしまっています。

そのひとつが、模擬試験です。入試直前になると多くの塾で「模擬試験」を行います。全く知らない場所で、実力が発揮できるのかどうかを見ようと参加するのですが、模試の結果をもらって余計に心配になり、右往左往してしまっています。そしてなお悪いことに、模試の結果が悪いことを理由に「直前講習にいらっしゃい」と勧誘され、それまでの学習とはまったく違う考え方で指導されることによって、それまで積み上げてきた学力の基礎が一挙に崩されてしまうのです。昨年のことでした。暗算能力をしっかり高めてきた子どもが、他塾の直前講習で「あなたたちは小学生ではないのだから、指でも何でも使って答えを出しなさい」と、指を使うことを指導された結果、今までできていた「頭で考える」暗算が全くできなくなってしまったことがありました。2週間の特訓でまた元に戻りましたが、こういうことが起こるのです。暗算すべきかどうかの議論はありますが、問題は直前になって違った解き方を押し付けられると、それまで自信を持って答えを出してきたことに子ども自身が混乱を起こし、その結果できなくなってしまうのです。

「何のための模試か」ということをよく考えてください。本当にその模試が、学校の出題意図に沿って作られているのかどうか。問題の難易度が、その学校の過去問のレベルであるのかどうか。子どもの理解を超えて、難問奇問でないのかどうか。大人でも苦労する難しい問題までやらせる必要があるのかどうか。一度疑ってみてください。私は多くの模試が教育的に配慮され、入試の実情を踏まえた模試であると信じていますが、中には根拠もなく難しい問題を出題し、できないことを理由に「直前講習」に参加することを勧誘される、つまり勧誘の手段として模試が使われていることを大変危惧しています。問題を作る担当者が、

  1. 現場で指導し、子どもの理解力を把握している受験指導の専門家かどうか
  2. その学校で出題された問題を、少なくとも過去10年以上にわたって分析できているかどうか
  3. その学校のみならず、小学校受験において出題されたいわゆる難問が、どのレベルの問題なのかを把握しているかどうか
  4. 子どもが難問を理解していく道筋をしっかり押さえているかどうか
  5. テストを実施する時点の子どもの学力の完成度に合わせ、平均点が60~70点になるような問題作りができているかどうか

こうした点を考えてみると、まったくの素人が情報が閉ざされていることを逆手に取って難問を作り、受験生の保護者を不安にさせるだけの「模試」になってしまっているのではないかと思います。

私は、「他塾で受けた模試ができなかった」と相談にみえる方には、必ず出された問題を持ってきていただくようにしていますが、いつもその問題を見て驚いています。出題根拠のない難しい問題が出され、それができないからと言って心配になっているお母さんに「そんな難しい、ひねった問題はこの学校では出ませんから、やらなくていいです」とはっきり言います。いったい何のための模試でしょうか。教育的な配慮のかけらもない模試をしている限り、いつか保護者から見放されてしまうでしょう。模試に1回参加しただけで合格者数にカウントされてしまうような、偽装もはなはだしいやり方が改善されていかない限り、まともな幼児教育・まともな受験対策ができる環境はいつまでたってもできあがらないと思います。

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