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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

夏の学習課題(3) 難問化の方法を知ること

第208号 2009/7/31(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今週から「夏季難問講座」が始まりました。この講座は昨年から行っている新しい講座ですが、この講座を開くことになったのは以下のような理由によるものです。

  1. 「どこまで難しい課題をやっておけば良いのか」といった保護者からの質問が多く、それに応えるために学習の最終目標を示したい。それにより、余分な心配をしないで安心して学習に打ち込める環境をつくる
  2. これから入試直前まで行われる各種模擬テストにおいて、実際の試験では出されないような奇問・難問が出題され、それができないと合格できないと言って脅され、直前の講習会に勧誘される、いわゆる「霊感商法」的な勧誘から子どもを守るため、入試の実態に即した難問は何かを具体的に明らかにする必要がある
  3. 子どもにとって難問とは何か。どんな問題ができて、どんな問題ができなくなるのか。その原因は何かを学習を通して具体的に明らかにし、家庭学習の参考にしていただく
  4. 学校側が問題を難しくしていく方法には、いくつかのパターンがある。それをトレーニングすることによって応用力をつける
  5. 私たちの教室で行っている「事物教育」が、難問対策の基礎としてどのような意味があるのかを明らかにし、ペーパーだけのトレーニングでは思考力は育たないことを保護者に伝える

教科書のない小学校入試は、何が基礎で何が応用かも明らかにされず、むやみに難しい問題を行うことが受験対策のように思われているところがあます。その難しい問題が、本当に入試で求められている根拠のある難しい問題であればよいのですが、根拠のない難問が非常に多く、受験生を混乱させています。その一つは講習会の内容、もうひとつは模擬テスト、そして最後の一つは市販の問題集です。学習課題として根拠のはっきりしているものなのかどうか、また、「実際の入試で出された問題なのかどうか」などの点を考えるとあいまいな問題が多いのです。入試の現状や幼児の発達などを全く知らない素人が、何の根拠もないまま、ただ難しくしようと考えた問題が氾濫しています。そんなもので足元をすくわれないよう気をつけてください。過去問を分析すれば、学校側が出す問題は非常によく練られた良い問題ですし、出題根拠がはっきりしている問題ばかりです。

では、子どもにとって難問とは何か。入試において学校側はどんな方法で問題を難しくしようとしているのか。それがわかれば対策の仕方はわかってくるはずです。その点について少し明らかにしてみましょう。ところで、難問化させる一番手っ取り早い方法は、

  1. 時間制限を短くすること
  2. 記憶の要素を多く取り入れ、一度に指示する内容を増やす

この手法は昔から取られていた方法です。しかし、最近の入試は使うペーパーの枚数も少なくなり、その限られた枚数の中で子どもの知的発達を見るには、機械的なトレーニングでできてしまう問題ではふさわしくありません。考える力がどれだけ身についているかを見ようとしています。ですから、最近では時間制限で難問化しようとする学校は減ってきており、質の高い問題を工夫して作ろうとしています。問題を工夫すればするほど、子どもたちにとっては難しい問題になるわけです。では、どのような方法で問題を難しくしているのでしょうか。その方法は次のようなものです。

(1) 問題を複合化させる(複合問題)
(2) 話によって、ペーパーで提示された場面を変え、その場面で新しい質問をする(変化)
(3) ペーパーを見ただけでは何の問題か意味がわからず、指示をしっかり聞きとり、理解しないと解けない問題を課す(初めての問題)
(4) 逆から問いかける(逆思考)
(5) 移動や回転の要素をたくさん取り入れる
(6) 小学校高学年で学ぶ文章題の「算」を、易しく幼児向けに変えて出題する
(7) 話の内容理解の中に、言語領域以外のすべての問題を取り入れてしまう

こうした難問化の方法をしっかり押さえたトレーニングが必要です。(3)で述べたように、これから学校側が出題する問題は、多分子どもたちにとって「初めて見る問題」が多いはずです。しかし、出題意図がこれまでのものと全く違うわけではありません。指示をしっかり聞き、何を答えたらよいのかを考えればできる問題です。しかし、パターンで覚えこんできた子どもにはそうした問題はお手上げです。ですから、ペーパートレーニングは、量でなく質で勝負しなくてはなりません。1枚のペーパーをもっと大事にし、いろいろな角度から質問してあげ、どんな問われ方をしても解いていけるだけの柔軟な思考力が必要です。そのためには、必ず答えの根拠を説明させることです。その際「だってお母さん(先生)がそう教えてくれたんだもの」では困るのです。自分の言葉で説明できるまで、考え方をしっかり身につけなければいけません。そうした徹底性が、ペーパー主義の学習では欠落してくるのです。できたら「はい次」ではだめです。正解していても、理由を聞くと全く違う発想で解いている場合が少なくありません。どんな場面にも通用する発展性のある解き方を身につけることが、初めての問題を解いていくだけの応用力の育成につながっていくのです。

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