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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

別な観点にたつことの難しさ

2005/07/21(Thu)
こぐま会代表  久野 泰可

入試問題の中で私たちが「数のやりとり」として分析している次のような問題があります。

明子さんと太郎君が5個ずつおはじきを持っています。ジャンケンをして勝つと、負けたほうから1個もらうことができます。
*明子さんが1回勝ちました。太郎君よりおはじきはいくつ多くなりますか。(95雙葉)

 子どもの遊びの中にありそうな身近なこの問題は、入試直前になっても間違いやすい問題のひとつです。多くの子が、「1個」と答えてしまうのです。明子さんが勝って1個もらったのだから、1個多いというわけです。その時、太郎さんのほうが1個減っているということを忘れてしまっているのです。そのことが理解できるまでには、少し時間が必要です。明子さんが6個になり太郎君が4個になるということを、おはじきなど使って考えさせると次第に分かってきます。しかし、差が2個になるということがわかっても、「もう一度ジャンケンをしてまた明子さんが勝ったらどうなりますか」という問いに、「3個」と答えてしまう子が目立ちます。まだ、十分理解していないからなのでしょう。

 この問題のポイントは、おはじきをもらう相手が比べる相手であるという点です。たとえばルールを変えて、1回勝ったら、相手からでなく「お皿の中にあるおはじきを1個もらえます」というものであれば、勝った人だけが増え、負けた人は減らないわけですからわかりやすくなるはずです。勝ったものが1個増え、負けたものが1個減るという関係の中で、どうしても子どもたちは勝って1個もらえたという観点にたって考えてしまい、負けて1個減っているほうの観点に立ちにくいのでしょう。こうした、観点を変えて関係を考えたり、同時に二つの観点でものごとを考えたりしなくてはならない問題が入試問題の中の、特に難しいとされる問題の中にたくさんあります。たとえば、「四方からの観察」「観点を変えた分類」「量の保存」などがそれにあたります。

 就学前の子どもたちは、あるひとつの観点にこだわると、別な観点に立ちにくいという思考の特徴があります。この、「知的自己中心性」から脱して、別な観点に気づいていくことが、柔軟な思考力の育成につながり、今さまざまなレベルで問題になっている「論理的思考力」を育てる大事な観点でもあるのです。長い順に見たら短い順からも見てみたり、右から何番目かがわかったら左から何番目かを考えたり、おじいちゃんから見たら私はなんと言うのかを考えたり・・・普段の学習の中で、別な視点からものごとを考えさせるチャンスをたくさん作ってあげることが大事です。また、人間関係の中で、昔からよく言われる「他人の立場に立って物を考えなさい」ということは、思考の発達を促す、大事な要素が含まれているのです。

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