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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

『「幼・小」一貫教育へ 10年度から東京・品川区方針』 報道に触れて

第193号 2009/4/10(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 3月26日付の朝日新聞は、品川区教育委員会はすべての幼稚園児、保育園児を対象に、集団生活のルールや従来小学校で教えてきた簡単な読み書き、計算などを統一的に教育する方針をきめたことを報じています。その中で学習については、小学校入学までにひらがなの読み書き、1ケタのたし算・ひき算程度ができるようにすることを想定し、小学校の教員が幼稚園や保育園に出向いて教えるほか、幼稚園教諭や保育士に認定制度を設けて教育を担ってもらったりする仕組みを検討するとしています。

従来から「幼小一貫教育」の推進を主張してきた私は、「やはり品川区で・・・」とこの記事を興味深く読みましたが、その内容を知ってがっかりしました。予想はしていましたが「1年生の内容を降ろす」という発想での改革のようです。これまでも就学年齢の1年引き下げ等の議論の中で、学習する内容も1年引き下げればよいといった議論がまかり通っていましたが、今回の品川区の方針もまったくその発想の域を出ていないということです。

自治体の行う改革は、常に制度的な改革が先で内容が伴わない場合が多いものですが、今回の品川区の方針も制度的な意味での「幼小一貫」は評価できても、その中味が小学校1年の内容を降ろして教えるようなものでは子どもたちの学力問題は何も改善されません。むしろ今よりも現場が混乱する改革でしかないと思わざるを得ません。

なぜでしょうか。まず小一プロブレムの問題の対応策として考えられた面が強いようですが、なぜ小一プロブレムが起こっているのか、それは学習することへの興味関心が幼児期にきちんと育てられていないからであり、たし算やひき算がわからないから座って聞いていられないのではないのです。具体物等を使って子どもの興味関心に合わせて授業が組まれていれば子どもは集中します。これは私が36年間実践してきたことですから、はっきり言えることです。

内容の改革が伴わない制度的な改革がどうしていつも起こるのか。それは報道にもある次のような認識が間違っているからです。

幼稚園の教育内容については文部科学省が「幼稚園教育要領」を定めているが、遊びの中で学びに興味を持たせることなどに主眼が置かれ、具体的な学習内容は記されていない。品川区教委は「英才教育ではなく、あくまで小学校の教育との円滑な接続を求めている」「教える順番を入れ替えたり、一体化したりすることを考えており、現行制度に反するものではない」としている。

つまり、幼稚園教育要領には具体的な学習内容が記されていない。だから小学校1年生で行うひらがなの読み書きや、1ケタのたし算・ひき算ができるように学習する。それが小学校教育との円滑な接続だということなのです。余りにも短絡的過ぎませんか。幼稚園教育要領には具体的な内容が記されていないから小1で学ぶことを降ろすと考えるのではなく、小学校入学後に始まる教科学習につなげるために、何をどう学べば良いのかを考えなくてはならないのです。遊び保育から一挙に「読み書き計算」に行く前に、幼児期の発達に見合った教育内容と教育方法を考えるべきです。その内容と方法は、私たちが実践してきた「教科前基礎教育」の考え方に基づいた「事物教育」です。つまり、たし算・ひき算の学習の前にすべきことがたくさんあるということです。それは、事物を用い、子どもたちが物事に働き掛けながら「考える力」を育てる教育であるべきです。

幼稚園や保育園に「読み書き計算」を機械的におろせば、今小学校1年生で起こっている「小一プロブレム」のようなことが、もっと深刻な形で幼稚園や保育園で起こる危険性があると思います。つまり、興味を持たない子に教え込みが始まり「できた - できない」の差別化が幼児期から始まることになってしまうのです。

私たちは昨年から「こぐまチャイルド会」を立ち上げ、こぐま会で積み上げた教科前基礎教育の考え方を幼稚園や保育園に広める活動を始めています。小学校で行われる教科学習の前に、その土台となる「考える力」を育てる教育を従来の遊びを中心とした保育を踏まえ行うというものです。こぐま会は小学校受験対策も含めた教育活動をしていますが、「こぐまチャイルド会」は受験対策の指導をするのではなく、こぐま会教育の一番基礎的な部分を、具体物を使った教育に絞って行うというものです。数・図形・言語を中心に生活や遊びにテーマを求め、教科学習で必要とされる思考力を育てることを目的にしています。ですから、「読み書き計算」を先行させた学習ではありません。具体物に働きかける楽しさの中から学ぶことの楽しさを知り、学ぶ姿勢をしっかり身につけてもらうことを目的にしています。「読み書き計算」を先行させた幼児教育では、日本の子どもたちの思考力は育たないと確信しているからです。

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