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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

考える力を育む「幼小一貫教育」の具体化のために

第182号 2009/1/16(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 秋に受験を終えた子どもたちと再会し、4月入学に向けた新しい学習がスタートしました。秋に受験があるために、こぐま会の授業は、11月にスタートして翌年10月にすべての教育課程を終了させ、ばらクラス生は受験し、ゆりクラス生は「ばらクラス」に進級する教育システムを取って来ました。その上で、受験終了組は、年明け1月から小学部の主導のもとで「就学準備クラス」として、算数・国語への導入を8回の講座として実施してきました。その内容は、足し算・引き算の指導、音読・文字指導を行うというものでした。これまでの学習を踏まえ、4月入学を自信を持って迎え、学習面でも後れを取らないように・・・というのが目標でした。今年も、その考えを引き継いだ「就学準備クラス」は、先週からスタートしましたが、今回新たに開講した「幼小一貫思考力育成クラス」は、小学校の内容を形式的に先取りした授業ではなく、これまで受験対策を含めて身につけてきた「考える力」をより発展させ、小学校の内容とどうつなげていくかということを中心に考えた授業です。別な言い方をすれば、小学校の内容を薄めて降ろすのではなく、これまで学習してきたさまざまな内容を小学校低学年の内容とどのようにつないでいくか、その橋渡しの指導ということになります。そのように考えれば、たし算・ひき算の考え方だけでなく、かけ算・わり算の考え方まで踏み込んだ指導が可能だということですし、もっと具体的に言えば、四則演算の計算トレーニングを重視するのではなく、話を聞いたり文章を読んだりして計算式を立てることを重視した指導をするということです。生活と切り離された数字の世界で計算だけをトレーニングをするのではなく、生活場面における数の変化を数式に置き換える練習(立式練習)を重視するということです。その立式にこそ「考える力」が必要となり、そこを重視した学習を幼児期から行わなければ「算数は計算力を高めること」といった誤った認識が、子どもにも植えつけられていってしまうからです。

具体例をひとつお話ししましょう。幼児に「9-5」の計算をさせるのはそれほど難しいことではありません。一般的に行われているように「9から5取ったらいくつ?」というような方法で説明すれば、すぐ答えは出てくるでしょう。しかし、文章を読んで「9-5」を立式するとなるとそう簡単にはいきません。何故でしょう。まず次の3つの文章を見てください。

1. 太郎さんはイチゴを9個もらいましたが、そのうちの5個を食べました。残りは何個でしょうか
2. 太郎さんはイチゴを5個、花子さんは9個もらいました。2人がもらったイチゴの数はいくつ違いますか
3. 公園で子どもが9人遊んでいます。そのうち男の子は5人います。女の子は何人いますか

ひき算の3つのタイプをきわめて簡単な問題にしました。1は求残、2は求差、3は求補という問題ですが、年長の今の時期にひき算の意味を伝え立式させた場合、間違いなくできるのは1の求残のタイプの問題です。求差や求補の問題はほとんどの子が立式できません。答えがわかってしまっているからなおさらです。求差や求補が引き算で解決するということを理解させるには、もう一度具体的な問題の場面に戻り、絵を描いたりおはじきを操作することを通して数的関係を考えさせ、答えはひき算で導きだせるということを理解させなくてはいけません。そこには考える力がどうしても必要です。機械的なトレーニングでできる問題ではありません。ですから、「9-5」の計算ができたからといってひき算がわかったことにはならないのです。具体的な場面での数の操作を、思考力を働かせて数式に置き換えていくことを学び始めの段階から指導しなくては必ずいつか壁にぶつかります。「算数は計算力を高めることだ」と勘違いし、盛んにおこなわれている計算トレーニング中心の算数教育を私たちが強く批判しているのは、今述べた理由によるものです。

ピアジェの考え方を幼児教育に応用し、その実践が日本にも紹介された「コンスタンス・カミイ」氏の著書には次のように記されています。

「・・・読み、書き、算数、という学業上の技能は、私の教育目標のリストにはない。その理由は、もし子どもが生き生きとし好奇心に満ちていれば、本、道路標識、容器に貼ってあるラベル、保育者の書く連絡帳やボーリングゲームで自分の倒したピンの数などに興味を持つようになるからだ。もし読むことに興味を持っていないのなら、5~6歳児が読むようにさせられなければならない理由はない。大学は、読むことはできるが自分が読んだことについて、正確に考えることができない学生でいっぱいだ。この現象は、考えることを軽視し、学業上の技能を過度に強調した学校教育の結果である。・・・・・」
(ピアジェ理論と幼児教育 チャイルド本社刊  日本版への序より)


「読み・書き・計算」を軽視するつもりはありませんが、「読み・書き・計算」を高めることだけに教育が集中した結果、日本の子どもたちの「考える力」が低下しているのです。私は、幼小一貫教育の柱は「考えること」を重視した教育プログラムでなければいけないと思っています。その具体的な指導を「幼小一貫思考力育成クラス」において実践したいと思います。その成果はいずれ報告し、そこで生まれた教材を公にしたいと考えています。

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