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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

09年度 私立小学校入試総括(4)
学校間における難易度の違いは何を意味するか

第180号 2008/12/26(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今年秋に行われた09年度私立小学校の入試問題を詳しく分析していくと、これまで以上に学校間の難易度の差が鮮明になってきています。難易度差という点について言えば、中学入試でも高校・大学入試でもあることですから特に驚くことはありませんが、受験対策の決め手となる「教科書」がない小学校受験の場合、どんな勉強をして試験に臨めば良いかという点ではたいへん大きな問題を抱えることになります。

たとえば、Aという学校を第1志望校と考え、併願校としてBとCの学校を考える場合、当然A校に合格するための対策を中心にすべきですが、問題の難易度が第2・第3希望のB校やC校の方が高い場合、A校だけの勉強では併願校の合格はほとんど望めないということになります。「教科書」をしっかりやっていれば大丈夫という中高の入試と違って何を基準に対策を考えたら良いのかという問題が出てきます。

先日の室長特別セミナーでご紹介した一例をここでも紹介しましょう。「話の内容理解」というどの学校でも必ず1題は出す問題ですが、その難易度の違いです。09年度入試として行われた3校の問題を並べてみましょう。

A校の問題
 みちこさんは、お弁当とハンカチとちり紙をカバンの中に入れて、帽子をかぶっていつも幼稚園に行っていますが、今日はハンカチを忘れてしまいました。

問1. いつもカバンに入れて持っていくものに、ピンクのまるをつけてください
問2. 今日忘れてしまったものに、オレンジのをつけてください

B校の問題
 ふたばちゃんはバナナが好きでバナナを食べましたが、1本あまったので冷蔵庫に入れました。ふたばちゃんが幼稚園に行っている間に、お母さんがバナナを食器棚に移し替えました。

問. 幼稚園から帰ってきたふたばちゃんは、最初にどこを開けたと思いますか?

C校の問題
 動物村に駅ができて、初めて汽車が来ることになりました。ウサギはおばあちゃんのお家に行くため駅に行きました。その他の動物たちもたくさん駅に集まっていました。汽車が来ました。サルの車掌さんが、「汽車が発車します。乗る方は、並んでお乗りください」と言うと、動物たちは一列になって汽車に乗り込みました。初めに乗ってきたのはリスでした。「ワーイ僕一番前だ」と言いました。その次にウサギが乗ってきて、リスのすぐ後ろに座りました。3番目にタヌキ、4番目にきつねが座り、一番後ろがヒツジです。みんな乗ってきた順番に前から座りました。最後にクマが乗って来ましたが、もう座る場所はありませでした。クマが「僕の座る場所がないよ」と言うと、リスが「僕のところに来ていいよ」と言いました。クマは「ありがとう」と言い、リスの場所に行き、リスをひざの上に乗せて座りました。汽車が発車しました。窓の外に真っ赤なもみじが見えました。最初の駅でヒツジがおりました。車掌さんは「汽車は少し止まります。」と言ったので、みんなも降りて少し川で遊ぶことにしました。ヒツジはもみじをたくさん拾って帰って行きました。サルが「発車しますから早く乗ってください」と大きな声で呼ぶ声がしました。みんな急いで汽車に乗りました。次の駅でクマとリスが降りました。そして汽車はどんどん走り、小鳥山の駅に着きました。

問1. このお話に出てこなかった動物にをつけてください
問2. おばあちゃんお家に行ったのは、誰ですか。をつけてください
問3. くまの座った場所はどこですか、をつけてください
問4. ウサギの座った場所はどこですか、をつけてください
問5. 小鳥山で下りたのは、全部で何人ですか。その数だけを書いてください
問6. このお話の季節はいつですか。をつけてください

どうでしょう。皆さんはどうお感じになりますか。C校を第1希望に考え対策を取っている子にとっては A校やB校の問題はすぐに解けるでしょう。では、A校を第1希望に考えている子がBやC校を受けるとしたら、どうでしょう。A校だけの過去問をやってもとても対策にはなりません。しかし、A校以外は考えていないという方にとっては、C校レベルの対策をとる必要があるかといえば意見が分かれるところでしょう。そんなに難しい問題が出ないのならやる必要はない、いや、どんなふうに問題が変わるかもしれないから小学校入試で出された問題はたとえ他校であってもやっておくべきだし、一歩難しい問題をやることによって、能力が引き上げられるのだったらやっておくべきだ・・・・・

こうした議論は指導上常にあることですが、この結論は子どもの状態をしっかり把握してから答えを出すべきです。原則的な事を言えば次のようになります。
どんな学校を受けるにしても

1. 他校であれ、小学校入試で出された問題のレベルまでは学習しておくべきである
2. その学校の難易度よりやや上の一歩先の難しい問題をやることによって自信がつく

これが受験準備の鉄則ですが、それはそれぞれのお子さんの学力の現状に合わせて判断すべきことです。

さて、上の例で見ていただいたように、こうした問題の難易度の差は言語問題に限らず数でも図形でもあります。それは、しっかり入試資料にあたってみておく必要があるのですが、一番の問題は、そうした入試の現状を踏まえない入試対策が横行している点です。

基本が身についていない今の段階から、難問対策に取り組んでいるご家庭があまりにも多いのに驚きます。業者側の思惑で足元をすくわれないよう、ともかく入試問題をしっかり把握し分析してください。入試問題の分析すらせず、難しいことをやることが入試対策だといって今の段階から過去問に取り組んでいるような教室では、まず子どもはつぶされます。今は基本をしっかり身につけ、どんな問題が出されても自らの力で問題を解いていけるような基礎学力の育成に力を注がなければなりません。基礎学力が何であり、応用力がなんであるかかがわからないような教師は子どもの前に立つべきではありません。そうした専門家でない教師が難しい過去問だけをやり、それが入試対策だと思い込まされているようでは、合格への道は閉ざされたままです。

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