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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教科前基礎教育をすべての幼児に

第176号 2008/11/28(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 11月6日(立川)と11月14日(新宿)に行われた講演会において、幼稚園・保育園の理事長・園長をはじめとした教育現場の責任者の方々に「教科前基礎教育」の考え方をお話しさせていただきました。こぐま会における「教科前基礎教育」の実践を幼稚園や保育園の基礎教育に役立てていただこうと、今年4月からチャイルド社と提携して普及活動を始めました。現在12の園において、幼稚園・保育園用に改訂したカリキュラムでの授業も始まっています。今後導入を希望される園の方々に、私たちが実践してきた「教科前基礎教育」の内容と方法を、映像を通して具体的にお伝えいたしました。

今、日本の幼稚園や保育園が大きく変わろうとしています。文部科学省も小学校教育とのつながりを考えた幼児期の教育を考えるべきだという方針を強く打ち出し、これまでの「遊び保育」一辺倒だった幼稚園や保育園の教育内容を見直す動きが加速しています。私は常々「小学校入学時はみな同じスタートラインと考えるのは間違いだ」と言ってきました。つまり、知的な発達がバラバラの状態であるにも関わらず、「同じスタートラインですから心配いりません」と、教育関係者は嘘をつき続けてきたのです。そうした現状を変えるべく、小学校に入る前に教科学習を支える「基礎教育」をしっかり行う必要があるのです。そして、その結果として「同じスタートライン」に立たせ、小学校以降の学習を始めるべきです。「落ちこぼれ」や「落ちこぼし」は、幼児期の基礎教育がしっかりできていなかったところに大きな原因があったのです。

こうした私たちの主張が、今やっと認められるようになったのでしょう。しかし、ここには大きな問題があります。つまり、「では何を学習するのですか?」という問いにだれも答えていないのです。文科省も具体的にこうしなさいとは言っていません。その結果どうなるかといえば、これまで小学校低学年で学習してきたことを易しく薄めてやれば良いということになり、足し算や引き算をやったり、漢字教育をやったり・・・ということに流れていく危険があるのです。つまり、何をやったらよいのかがわからないので、「読み書き計算」につながるやさしい部分を幼稚園でやれば良いということになってしまうのです。

そんな改革ではなにも変わりませんし、新たな矛盾を作り出すだけです。そうではなく、「考える力」を発達に即してしっかりと身につけるためのプログラムが必要です。それは、小学校低学年の内容を易しくして降ろすのではなく、教科学習を支える考え方を、生活や遊びを再現しながら身につける「事物教育」であるべきです。それが、これまで主流であった「遊び保育」と矛盾なくできる教育だと思います。私たちが長い間かけて作り上げてきたプログラムは、決して早くやることに重きを置くのではなく、物の見方・考え方を事物に働きかけることを通して身につけていく教育法なのです。

講演会終了後の質疑応答や個別の相談を通して、やっと幼稚園や保育園の現場の先生方が、「遊び保育だけではいけない、何かしなければ・・・」という前向きな姿勢を持つようになってきたということを強く感じました。日本の子どもたちの学力をしっかり育てる意味でも、幼児期からの基礎教育はすべての子どもたちに必要です。

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