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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

訓練された不自然さを、学校側は拒絶する

第164号 2008/09/05(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

夏休みが終わり、こぐま会でも入試に向けた最後のまとめの学習に入りました。また、保護者の方は、願書添削や面接練習もほぼ終わり、最後の準備に入っていることと思います。神奈川では、もうすぐ願書の受付が始まり、それに続き面接が始まります。

夏休み中の授業の合間に、子どもたちの面接練習をしてきましたが、子どもたちの受け答えを見て、最近強く感じることが2つあります。

(1) 話すことがとても苦手で、その結果黙ってしまったり、話す声が極端に小さい子が増えている
(2) 一方で、質問されるとすぐに大きな声で答えるが、気持ちのこもらない訓練された話し方が目立つ

(1)のように他人の前で質問されることに対して、自信を持って答えられない子は確かに増えています。普段からそうなのか、特別な場になると緊張して話せなくなるのか・・・。
いずれにしても対策が必要です。もちろん、こうした課題は普段の言語生活が問題になりますから、ともかく自分の考えを相手に言葉で伝える経験をたくさん持つしかありません。お母さん、お父さんとの会話が良くなされ、園での生活では友だちと積極的に話し合えるようにならなくてはなりません。しかし、今の子どもたちが言葉を介して自分を表現することが極端に苦手であることは、学校側も生徒たちを見てよく知っているはずです。だからこそ、「インタビューごっこ」が入試で行われたり、行動観察で「相談する」場面が意図的に作られたりしているのです。入学後の最初の保護者会で「毎日30分で良いので、お子さんと会話する時間をつくってください」と言われるのも、話せない子が多い現状を反映しているからです。声を発する経験を意図的に作り出すために、歌を歌ったり、詩を暗唱させたりすることは、家庭でもできる練習法だと思います。

一方で、大きな声で受け答えができる子の中に、どうみても訓練された受け答えしかできない子が目立ちます。「お名前を教えてください」と聞けば「私の名前は、鈴木花子です」と答え、「お父さんのお仕事は何ですか」と尋ねると「私のお父さんのお仕事は、お医者さんです」というように、会話としてきわめて不自然な受け答えをする子がみられます。「お名前は?」と聞かれればわざわざ「私の名前は・・・・」といわなくても「鈴木花子です」で良いわけです。訓練された受け答えしかできない子は、(1)のような子ども以上に気になります。それが、面接本を見て、家庭で訓練された結果ならともかく、塾の教師が徹底して教え込んでいると聞くと、いったい何を指導しているのかと疑ってしまいます。こうした訓練された子どもは、昨年ある学校の入試でほとんど落とされました。それは訓練されたから悪いのではなく、人と人とが会話する上であまりにも不自然だからです。気持ちのこもらない受け答えは、学校側は必要としないからです。たどたどしい受け答えでも、子どもらしく気持ちのこもったものであれば、学校側はちゃんと受け止めてくれるのです。こうしたことと関連して、最近の口頭試問の特徴は、箇条書きにしたいくつかの項目をただ質問するのではなく、ある質問をして子どもが答えると、答えた内容に対して新たな質問をするというように、たたみかけて聞いてきます。つまり、会話形式で進んでいくのです。ですから、100の項目を訓練してきても、面接本に載らない質問が数多く存在するのです。これは、子どもの面接だけでなく、保護者の面接でも全く同じです。父親と面接本に書かれた項目を一つ一つつぶしていって万全な対策をとっていっても、答えた内容に対して次から次に質問が浴びせられ、「準備していなかったから・・・」と答えられなくなってしまってはダメです。ですからどのように答えるかを練習するのではなく、質問されるであろう内容に対して、考え方をまとめておくことが大事です。願書でもそうです。綺麗ごとがたくさん並んでいる願書は、読む人の心に響きません。読み終わった後、いったい何を言いたかったのかが伝わってこない願書が目立ちます。それはきっと何かお手本があって、それを上手につないでいった結果の文章だからです。表現の仕方に多少問題があったとしても、学校側に伝えたい「家庭の教育方針」がしっかり伝われば良いのです。あれもこれもと・・・美辞麗句を並べても、その家庭らしさが伝わらない願書では、受け止めてもらえません。学校側は「行間を読む」のですから・・・・・。

子どもの口頭試問の例から発展して、願書や両親面接の件にまで言及してしまいましたが「受験のため」と称して行われている指導が、あまりにも不自然な態度を作る結果になっていないかどうか、皆さんがお持ちの当たり前の感覚でもう一度点検してほしいと思います。受け入れる学校側は、何が本物で何が偽物か・・・・そんなことは一瞬のうちに見抜いてしまいます。受験用の特別な受け答えや言い回しがあるわけではありません。ごく普通の感覚で、気持ちや考え方がしっかり伝われば、それをこそ、学校側は受け止めてくれるはずです。訓練された不自然な対応や借り物の表現は、今すぐに直すべきです。

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