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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教科前基礎教育をすべての子どもたちに

第110号 2007/07/13(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 先日、私の生まれ故郷である静岡県島田市牛尾(旧金谷町)にある、五和(ごか)保育園を訪問しました。最近新築された園舎は、東京から車で2時間半あまりの牧の原台地のふもとにあり、そばを大井川が流れる、緑豊かな環境の中にありました。ここを訪れたのは、来年4月から、私たちの開発したプログラムを導入し、生活や遊びを土台とした教科前基礎教育を実施するための準備会に参加するためでした。

 午後2時過ぎに園に到着したため、ほとんどのクラスが午睡の時間でした。子どもたちが寝て静かになった部屋の隅のほうでは、保育士の方がこの時とばかりに記録をとっているようでした。朝7時から夜7時まで、0歳児から5歳児までの、およそ300名近い子どもたちを預かる保育園のようですが、年長クラスは1人の保育士が30人の子どもの世話をしなくてはならないようで・・・これが保育の現実であることを考えると、どのような方法で私たちのプログラムを導入し、どのように定着させていくべきか・・・いろいろ考えさせられました。

 理事長先生をはじめ、園の経営に責任を持つ方々にお会いし、私たちの考えている教科前基礎教育の内容と方法を具体的にお伝えしました。1クラス12名前後の子どもたちを2名の教師で指導している私たちの教室のことを考えると、一人の先生が30名の子どもを担当する現実の中で、どのように工夫してクラス編成をしていかなくてはならないのか。そして、これまで積み重ねてきた園の実践と私たちのメソッドをどのように融合させ、カリキュラムとして具体化すべきか・・解決しなくてはならない問題がたくさんあるように思います。

 しかし、そうした困難な状況にあっても、私は幼稚園や保育園の日常保育の中で、私たちの作り上げてきた「教科前基礎教育」を実践することが、日本の幼児教育を変革するためには必要だと考え全力で取り組んでいく覚悟です。こぐま会の「セブンステップスカリキュラム」は受験のためだけに考えたものではありません。受験があるなしに関係なく、幼児期の基礎教育の具体的内容として、世界中のこどもたちに通用するプログラムとして作り上げてきました。ですから、中国や韓国でもこぐま会のメソッドが注目され、実践も始まりました。

 こぐま会のプログラムは、事物教育と対話教育を重視し「論理的思考力」をどう育てるかという私たちの長い実践活動から生まれたプログラムです。小学校入学後から始まる「教科学習」の土台を作るプログラムですから、小学校入試に対する準備教育の中身として最強のプログラムのはずです。問題を作成する小学校の先生方が、こぐま会の問題集を参考にしているのは当然のことだと思います。

 保育関係者との話し合いの中で、現場の保育士の方々が一番心配しているのは、こぐま会のプログラムが「遊び」を否定し、学習を重んじるプログラムではないのかということでした。遊びの否定は、自分たちの役割を否定されることにつながり、受け入れられないということのようです。この疑問についてはきっぱりと否定しました。

 私は、遊びや生活を抜きに、論理的思考力が身につくとは考えていません。生活と切り離したところで行われる知的トレーニングは、幼児にとっては何の力にもなりません。遊びや生活の中で、ものや人に働きかけることを通して、子どもたちの能力は育っていくのです。しかし、今の保育は、遊びで得た経験を、教科学習につなげていく橋渡しがなされていないのです。経験したことをもう一度意識的に取り出し、そこで必要とされるものの考え方を繰り返しのトレーニングによって定着させ、知的学習の土台を作り上げておくことが必要なのです。

 中国でお会いした著名な大学教授が、「日本の幼児教育学者はなぜ夢ばかり追っているのか。遊びも大事だけど、遊びだけでは、幼児の学力は育たない。なぜもっと現実を見つめないのか」と話されていました。東京のビルに囲まれた教室だけでなく、生活があり、たくさんの遊ぶ経験がある日常の園生活の中で、私たちは幼児の学力を育てる新たな実践を始めたいと考えています。

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