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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.78「正しい就学準備 ~図形~」

2012年2月10日(金)
こぐま会小学部長 渋谷 充
 これまでは「数」について、「位置表象」についてとお話ししてきました。今回は算数の中でも最も重要だといってもよい「図形」についてお話ししたいと思います。
図形といっても多くの分野がありますが、就学準備期のドリルなどを見ると「三角形」「四角形」「円」などのいわゆる“一般的”な形についての定義を学ぶよう系統立てられています。現在の指導要領の常道です。これまでの経験上この時点で難を見せる生徒はあまりいません。小学校低学年期の算数における図形的な内容は非常に薄いため、本当の意味で学んでいるかどうかも疑わしいものです。問題は小学2年生以降、図形の計量(長さや面積、角度などの計算)、図形の特徴(直角、長さや角度の相当関係など)を学ぶころに出てきます。それまでは、何となく形の名前と見た目が一致しているので、教えている側も学んでいる子どもも特に課題があるとは気も留めず過ごしてしまいます。しかし、本格的に図形の学習が始まると、理解に難を見せる生徒がだんだん増えてきて、小学校高学年のころには「図形は嫌い」という生徒がクラスの多くを占めてきます。

(1)下の図形の白い部分と黒い部分はどちらが広いですか。
(2)下の図形の直角はどこですか。
(3)下の図でブランコを動かすとどのように動くか線を引きなさい。

(1)は直角二等辺三角形2個で正方形を作りながら広さを比べる問題、(2)は水平方向と鉛直方向でできる単純な垂直関係ではない問題、(3)は円周軌道の感覚を調べる問題。ほんの一部ではありますが、難を見せる生徒が少数ではなくなってくる問題を紹介しました。もちろんこれだけではありませんが、私は授業の中で生徒の図形の感覚を確認する上でこのような問いを利用します。もちろんこれらの問いは発問の時点でわからなくても、一度教えて理解できればまったく問題がありません。そのために算数という教科があるのですから、そこで学べばいいのです。しかしながら、それが2度3度教えてもしっくり来ないケースは少なくありません。その理由は、この程度の状態や現象の基本的な内容になってくると、個人の図形に関する経験量の多少に差があることがほとんどです。よい悪いではなく、たまたまそれまでの生活において、折り紙やつみ木などの物体を利用した遊び、自然現象の客観視などの経験量が少ない場合、このように紙面での学習はよりハードなものになります。まだ3次元的な経験を2次元で形式的に処理する準備ができていないのです。就学準備期において気をつけなくてはいけないのは、お子さまが図形が苦手のような気がするからといって、ドリルなどによる紙面学習をひたすら続けないことです。まったく効果がないどころか、早めに図形に対する嫌悪感を植えつけてしまいます。冒頭に“一般的”なかたちとして申し上げた「三角形」「四角形」「円」などは、実際の生活空間で見られる図形の中ではほんの一部で、本来は非常に“特別”な形です。紙面でそのような一部の図形をいくら学習しても、より複雑な図形の理解に到達できることはありません。図形学習が本来持つ姿は、生活経験をしっかり体系化するためのものです。そのように捉えられるよう、保護者の方々のスタンスも長期戦であると認識していただきたいと思います。勉強のように評価がつきまとうものではなく、できるだけ子どもが集中できる遊びを重視しなが待ってあげるのです。

そうはいっても図形に対する評価は現実としてありますし、とりとめもない遊びを続けていても効果があるようには見えないというのも保護者の方々の率直な意見でしょう。そこで私が授業で扱う図形的な内容の中で、生徒からの反応が非常によいものを一つ紹介をいたします。

(問題)つみ木を積み重ねて、[正面]〕[右]の2方向から見たら下のように見えました。
5個のつみ木を使ったとしたらどのようにつみ木を積んだでしょうか。
[正面][右]

この問題は2次元に投影したものから3次元的な状態を復元するものです。こたえは1通りではないですが、1通りできたら正解としてよいでしょう。発展的には「他にもあるかな」や「5個のつみ木」ではなく、「何個使うか」などのような質問で可能性を探るのも肝心です。この問題は子どもたちも集中して取り組みやすく、授業では図形的な感覚を養うのに有用ですので、どんどん発展させて遊びながら学ぶことができる題材の一つです。

「幾何学に王道はなし」といったのは図形の大家ユークリッドです。全くそのとおりで、現在の指導要領では便宜上系統立てた学習になっていますが、本来は図形の理解に順序などありません。豊富な経験をもって図形学習にあたれるよう、子どもたちの有益な「遊び」を待つ環境を整えてあげてほしいと思います。

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