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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.77「正しい就学準備 ~位置表象の中の論理~」

2012年2月3日(金)
こぐま会小学部長 渋谷 充
 前回は数の概念の習得について大まかな話をいたしました。今回は図形的な概念と関係が深い位置表象について、就学準備期に何をすべきか考えたいと思います。
まず、一般的に幼児教育で位置表象教育といわれているものは、物体の主観的な位置と客観的な指標を用いての位置を一致させることです。
例えば、幼児期には下のように「リンゴ」が置かれている場合、主観的に視覚系で感じ取った位置を脳で把握しています。しかしその位置には客観性がなく、特に伝達したり、されたりする場面ではより一般的に認識できる状態に表象する必要があります。このリンゴの位置は、初期段階では指をさして「ここ」という客観的表現を使うでしょう。成長するにつれて、「ここ」や「あそこ」だけでは生活の中で不具合が生じはじめ、そこに「上下左右」や「~番目」などのより客観性の高い言語を利用して位置を表象します。下の場合は「上から2番目で右から3番目」という位置表象ができるように幼児期に指導します。


就学の準備として取り組んでいただきたいことは、この客観的な位置表象を理解し、表現できるかどうかを確認することです。「上下左右前後」「~から」「~まで」「~番目」などの基準となる指標を使い分けることがこの時期の目標となります。ペーパーなどの訓練でスムーズに理解してくれるようであれば、それでよしとしてよいでしょう。
ただし、決して間違ってはいけないのはこのような位置表象の客観的利用は絶対目標ではないということです。そして、「ここ」「あそこ」と言うお子さまが、位置を表象できていないわけではないということも付け加えておきます。主観的にはしっかり理解していながら、現在のところ「ここ」「あそこ」程度の表現で生活に不具合が生じていないだけです。子どもの視点では、普段「上から~番目」という表現でデジタル化された位置表象より、「ここ」や「あそこ」といったアナログ感のある位置表象のほうが、より3次元的に、正確に表現できている場合が多いので、あえて客観性の高い位置表象に置き換えて表象レベルを下げる必要がないのです。さらにこの時期では月齢などの問題から、言語全般において同じように客観性の高いものに置き換えることへの子どもの本能的な抵抗現象が見られます。ですから、大切なのは無理やり勉強のように教えて、その後に嫌悪感を残すよりも、やはり生活の中で自然と身に付けていくことを模索すべきです。「あそこ」などの表現より便利なものがあるというポジティブな場面をどれだけさりげなく作れるかがポイントです。このように残された数カ月間は、しっかりと経験成熟度を見極めたうえで位置表象についての就学準備をしてほしいと思います。

上述したような位置表象学習を一通りクリアしている場合は、より発展的な方向に進めても結構です。幼児期の平面位置表象の学習を発展させる方向として一つ考えられるのは、その位置表象に利用しているマス目(平面座標系)を媒介にして潜む論理を問うことです。

[例]
(1)2×2のマスの中にはそれぞれ下の4つの絵が入ります。ヒントを聞いてこたえましょう。
ヒント:1. ゴリラはリンゴの下にあります。
2. バナナは左下です。

(2)3×3のマスの中にはそれぞれ下の9つの絵が入ります。ヒントを聞いてこたえましょう。
ヒント:1. 車は飛行機より右にあります。
2. バナナと飛行機は一番上にあります。
3. 猫はこたつで丸くならずに、こたつのすぐ上にいます。
4. トウモロコシのすぐ下には車があります。
5. ブドウとスイカの間にこたつがあります。
6. ブドウと飛行機の間にリンゴがあります。


(1)は初級編。就学準備ではこのぐらいからスタートさせ、(2)ぐらいまでできるようであれば十分です。とくに(2)になると位置表象にとどまらず、場合分け、必要条件による絞り込みなど、論理の基礎となるものをたくさん通過しなければ正当にたどり着きません。
平面の位置表象ができるようになったら、その論理を深く考えることが大切です。そうすることで位置の相対性を明確に理解できる経験が身に付き、より発展的な平面幾何などの分野を学習する基礎となります。正しい就学準備としてより大切な経験をさせてあげてほしいと思います。

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