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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.74「正しい就学準備 ~順序数と集合数~」

2011年12月2日(金)
こぐま会小学部長 渋谷 充
 今回からは少し具体的な話にしていきたいと思います。ご家庭におかれましても、算数の学習にあたってまず気になるのは数の概念でしょう。ここでひとつ大切なのは、子どもが小学校で初めて数の概念を学習するのではないということです。子どもはすでに数に対する感覚をたくさん持っています。小学校ですることは、その感覚をアラビア数字や「+」「-」などの記号を導入したうえで再定義することです。
さて、数字や記号の導入で確認しなければならないことは、5の構成や10の構成がしっかり身についているかどうかです。そのために、保護者の方に集合数と順序数を理解してもらうことを重視しています。


具体的な例を挙げて簡単に説明すると、「上の車の図において右から3番目の車を塗りなさい。」という問いで聞いている「3」という数字は、順序数としての「3」です。また、「左から3つ車を塗りなさい」という問いで聞いている「3」という数字は、集合数としての「3」ということになります。同じ「3」でも2種類の意味を持つので、そこをしっかり理解してもらうための指導要領となっています。

[順序数的「3」]


[集合数的「3」]


正しい就学準備をするにあたって、保護者の方々がこの集合数と順序数について理解することは非常に大切です。より正確に申し上げれば、教育現場ではこの集合数と順序数というくくりで数を指導しているのだと知っている程度にすることが肝心です。

集合数と順序数の関係は、突き詰めれば非常に難解で数学でいうところの帰納法と演繹法の議論などにも通じるものがありますので、今回は簡単に集合数と順序数の子どもの理解の方向について、現在の状態を知っていただければと思います。

第一に順序数から集合数への発展ができているかどうかです。一般的には「1,2,3,4,5,6,7」と、ものの個数を数えた結果、順序数でいうところの「7」まで到達したから、ここには「7」の集合があると理解させるとしてよいでしょう。場合によっては、「7」までかぞえてしまったら、それまでの「1~6」までが忘れられてしまって、順序としての「7」だけが残り、それが集合としてとらえられていないケースもたくさんあります。訓練の末、反射的に問題の解答を作ることができているお子さまでも、大きな数になると正確さが急激になくなる場合もありますので、就学前には改めて数を多くするなどして確認することが大切でしょう。
このように、順序数を起点に集合を発想する方法で広く利用されているのは数唱です。数唱をしっかりすることで「100」のように漠然と大きな数が、連続性を伴った体感できる数となります。しかし、この「数え主義」とも呼べる方法のみで数の概念の導入が済むわけではありません。後の大きな数や図形のような漠然としたものに対する思考の発展を阻害することにならないようにするためには、もうひとつの集合数から順序数への発展も考えなければいけません。
あめ玉を2個もらったときに、お母さんから「はい2個あげる」といわれた経験から、画像としてのあめ玉2個、つまり集合数としての「2」を直感的に得ている場合もたくさんあります。5個ぐらいまでなら、幼少期のうちにこのように視覚的な処理で理解してしまうこともしばしばです。


子どもが音で理解した言語を場面や物体にあわせて使い分ける(もちろんこの時点では言語自体を分解することはできない)ように、幾何学的イメージに集合数としての役割を与えるほうが、数かぞえより先行して行われていることが多くあるのです。中にはかなり大きな数まで正しく判別できるお子さまもいますし、そのような子どもが後の計算の処理スピードなどに才能を発揮する場面も多々あります。この「直感主義」ともよべる数概念の習得方法として非常に有名なものがそろばんでしょう。5進法による、視覚的イメージが数計算の処理にバランスがよく、果ては非常に大きな数まで脳の中で形式的に処理ができてしまう「暗算」に強くなります。
「数え主義」と「直感主義」、どちらも捨てがたいですが、大切なのはどちらかの主義が優先されるというわけではなく、どちらも常に共存しているということです。現在では情報がたくさんはびこりすぎて、一部の生徒をクローズアップしてその方法論の正当性を誇張する時代ではありますが、それらの情報にあまり右往左往してはいけません。計算反復教室に通わせておけば、またはそろばん教室に通わせておけば大丈夫として、より大きな問題に気づかずに数年過ごすことになります。また、特に計算反復に多いのですが、わざわざ教室に通わせなくても、家庭で強引にできてしまうとするのも非常に危険です。やはり「餅は餅屋」という現実もあります。私は、殊に算数において保護者の方が直接的に指導に介入するのはお勧めしません。必ず手放さなければならない時が来るのですが、そのタイミングがなくなってしまうからです。

冒頭で、保護者の方がこれらの数教育について、あえて“理解すること”ではなく、“知っている程度”であることが大切だと述べました。これは、理解したことで親としての本問を忘れ、先生として子どもを指導してしまう保護者の方を数多く見てきているからです。保護者の立場として直接算数教育に介入することは得策ではないですし、かといって盲目になり、いつの間にか子どもが算数が不得意になっていたとするのもよくないからです。数教育といっても、ほとんどは概念教育でありますから、子どもにそれを支える経験がなければスムーズに入ってきません。子どもの経験の偏りをネガティブにとらえずに、しっかりと大局観を持ってバランスを持って接してあげてほしいと思います。正しい就学準備を考えるにあたって通塾を考えられる場合、保護者の方も指導者の方もぜひこのことをしっかりと理解した状態でお子さまの環境を整えてあげてほしいと思います。手前味噌ではありますが、「KUNO method」から理論だてられたこぐま会の小学生部門においては、通常の算数授業に合わせて、知能育成型の授業を展開しております。「漠然としたものへの裏付け」、「積み重ねからの発展」の双方向が完成されるようなカリキュラムになっておりますので、ぜひ足を運んでみていただきたいと思います。

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