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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.72「算数を得意にするマクロ環境 ~”実用的な算数”とのつきあい方~」

2011年11月11日(金)
こぐま会小学部長 渋谷 充
 先日、震災のため開催を見送られた、文科省による「平成23年度全国学力・学習状況調査」の問題が公開されました。調査は小学6年生に対するもので、「知識」を問う算数Aと「活用」を問う算数Bの両方をテスト形式で実施する予定でした。例年通り算数Bは難易度が高く、差がつきやすい出題傾向となっています。以下は算数Bの[2]、[3]、[4]の問題です。(その他の設問も、「国立教育政策研究所」ホームページ(http://www.nier.go.jp/index.html)を参照)


[2]

[3][3]

[4][4]

国立教育政策研究所 <http://www.nier.go.jp/index.html>
 教育課程研究センター「全国学力・学習状況調査」
 平成23年度全国学力・学習状況調査として実施を予定していた調査問題・正答例・解説資料について
 『平成23年度の調査問題について』
 <http://www.nier.go.jp/11chousa/11mondai.htm
 『調査問題の内容/【小学校】算数B(PDF)』 pp.6-15
 <http://www.nier.go.jp/11chousa/11mondai_shou_sansuu_b.pdf
 (2011/11/11アクセス)

ご覧の通り、一般的に算数の問題と認知しているものとは様相が違います(知識や技能を問う形式は算数Aに集約)。[3] はかろうじて見た目も算数っぽいですが、[2] は音楽?、[4] は社会?と感じてしまうほどです。実際は、各方面にわたる算数的要素を題材にしているので間違いなく算数の力を問う検査です。音符の記号化に潜む法則性という算数、目に見える現象の2次元・3次元的な感覚の中に潜む算数、グラフにして可視化したことにより見える因果の中に潜む算数、あらゆる分野を算数的切り口で分析することを設問にしています。この検査方法は「実用的な算数」と言いかえることができ、実用的とはより社会性の高い、目的が明確な状態を指すといえます。

このような形式で検査・選抜する方式は学校内外にどのような影響を与えているのでしょうか。

ところでこのような設問形式は、公立中高一貫校の適性検査の出題を彷彿させます。公立中高一貫校とは平成6年に宮崎県の五ヶ瀬中等教育学校が開校したのを皮切りに各都道府県において増加している形態で、従来の私立の一貫校と同様に通常の中学1年生から高校3年生までの6年間の教育を一貫して行う公立の学校です。タイプも選抜が中学入学時のみの「中等教育学校」、中学入学時に加え高校入学時にも生徒募集をする「併設型中高一貫校」、地域の中学・高校が連携を取り簡便な選抜を高校入学時に行う「連携型中高一貫校」と3つあり、学校によりタイプが分かれます。最近では千葉県の名門県立千葉高校が中学を併設したことでも有名になったように、地域の歴史ある進学校が併設型中高一貫校に生まれ変わる例もでてきています。
選抜方法はほとんどの場合、学力試験にあたる「適性検査」があります。適性検査の一般的な印象とは裏腹に、生徒のリテラシーを検査する出題に特化しているため必然的に難易度は高く設定されています。現在全国的に主流となっている出題形式は、平成14年に中学校を併設して一貫校となった岡山県立操山中学・高校の適性検査だといわれています。今では70校以上ある公立中高一貫校のほとんどがその出題形式を採用しています。上の全国学力調査もこの数年は、これらの適性検査と酷似した形式をとり、どちらが先かは別として公の機関の選抜方法の主軸を担っている出題形式であります。

この検査方式で選抜した純粋溶媒の生徒が、岡山操山高校の卒業生が平成20年度に出始めたのをきっかけに各都道府県において続々とでてきています。また、その結果は多くの場合大学進学率が向上しています。これを6年間の一貫教育の成果ととらえるのも一つの見方ですが、同時に選抜時点で優秀な生徒を抽出できたということもいえるでしょう。その高い選抜パフォーマンスをとる選抜方式に適性検査が一役担っているということです。私の経験上も、このような模試を受けて高得点を取る生徒は、その時点での一般的な模試の成績ではなく、内在しているポテンシャルを持っている子が多いと感じています。上の学力調査は全国的なものですが、名門校の適性検査の難易度はこの比ではありません。正直なところ例題ばかりこなして成績のみを保っている生徒は全く解答できません。そのような適性検査をくぐり抜けた子どもたちが、6年間の間にうまく花開くことができているということが一貫校のよい結果を物語っているのでしょう。

東京都内にも10もの公立中高一貫校があり、地方も巻き込んだこの大きな流れは公立の復権をかけて今後も拡大していくことになるでしょう。成果が出ているのですから喜びたいところですが、私が一つ問題だと思っていることがあります。それはこの適性検査を受けるまでの勉強法です。現在主流な適性検査対策法は旧態依然とした例題・過去問を大量にこなす手法です。はっきり言ってほとんど効果がありません。この学習法では学習塾に入塾した時点で良くも悪くも結果が見えてしまいます。そもそも私は、この適性検査で行われている選抜方法はポテンシャルが高い子を抽出できているという点では成果を出しているとは思いますが、すべての教科が実用的なものありきで学習するということには全く同意できません。大学の独立法人化後に出てきた問題と類似していて、 社会で必要とされる実用的な研究と基礎研究は分けて論じなければならないのと同様、子どもの学習を社会的に実用的かどうかの絶対基準のみで語るのは将来の選択肢を広げるどころか、基礎のない小手先の技術のみを教え込むことになってしまいかねません。「実用的」というのは無数にある星の中から目当ての星を抽出する作業であって、それを一つ一つ固有の見つけ方を教え込むことだけに固執することは非常に危険です。
学習が結果的に実用的になることには異論はありませんが、そこに至るまでの過程は単に画一的な方法をとってはいけません。あらゆる学習・経験が結果として実用的な部分を生み出し、また新たな「実用的」につながっていくのだと確信しています。

最後に、今回話題のこれらの選抜方法は、学校側としては非常に効果があると思っています。また、個人的には確かに本質的に優秀な生徒を選抜している感もあります。ですから適性検査を合格するために勉強するならば、単に受験間近に過去問を解きまくるという手法ではなく、周りの大人が子どもに対してしっかりと幼児期から幅広い経験ができるよう支えてあげてほしいと思います。

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