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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.51「うるさい!せんせい」

2011年4月8日(金)
こぐま会 幼小一貫ひまわりクラブ算数担当 久野雅弘
 2カ月ほど前、つるかめ算の学習をしていたときのことでした。説明に没頭していた私は、ある一言でハッと我に帰り、思わず笑ってしまいました。

つるかめ算とは以下のような問題です。

例題
  鶴と亀、あわせて9匹います。
  足の数は全部で24本です。鶴と亀はそれぞれ何匹いますか?

この問題を聞いて、感のいい子どもはだいたいの見当をつけて答えを導き出してしまいますが、大半の子どもはポカンとしています。

解き方には次の2つの方法があります。
1. すべて鶴だと仮定し、足りない足の本数を導き出してから、亀に入れ替えをする
  →2×9=18、24-18=6、6÷2=3、9-3=6
2. すべて亀だと仮定し、多すぎる足の本数を導き足してから、鶴に入れ替えをする
  →4×9=36、36-24=12、12÷2=6、9-6=3

最初は「じゃあ、全部鶴だとしたら足は何本になるか考えてみよう」というヒントを足がかりに、解いていきます。ほとんどの子どもは、全部鶴だとすると足が6本足りないということに気がつくと、その立式も正確に行えます。(9×2=18や24-36=12など、これまでしばしば見られていた間違いも、この頃になると当然のようにしなくなっていました。)

問題はここからです。「全部鶴だとしたら、6本足りない」ことをどう答えに結びつけるか、つるかめ算の最大のポイントは以下の3点です。
1.全体の匹数を変えずに足りない足を補うにはどうするか
= 鶴から亀に入れ替えを行うという発想ができるか
2.鶴1匹から亀1匹に入れ替えをした場合、増える足の本数は4本ではなく、2本であることに気がつくか
3.立式(6÷2=3)できるか
= 「÷2」と「=3」の意味が理解できているか

子どもたちは、9枚の鶴のカードを並べたあと、その中の何枚のカードを亀に入替えたらよいか考えながら立式していきます。(幼児期に行った「じゃんけんゲーム」などの数のやりとりの学習が、2.のポイントを理解する上で非常に役立っています。)

1.2.に関してはみんな理解できますが、3.に関してはもう少し工夫が必要です。そこで、この場合の6÷2=3で、以下のようなお話をつくってみます。

足が6本たりません。そこで鶴から亀に入れ替えをします。鶴1匹を亀に入れ替えると足は2本多くなるので、鶴3匹を亀に入れ替えれば足りない6本を補えます。
ところが、このお話をしても6÷2=3という発想にはなかなか辿りつけません。子どもによっては、6-2=4、4-2=2、2-2=0、だから3匹亀に入れ替える、という考え方の方が理解しやすいようでした。

この立式(6÷2=3)を理解させ、さらに、全部「亀」だとした場合に登場する12÷2=6の「÷2」との違いを理解させたい、その一心で説明をしていた時のことでした。1人の生徒が放った言葉が、私の胸に突き刺ささったのです。

「うるさい!せんせい」

ズバリ正論を言われてしまったという感覚でした。
「そんなムキになって話されても何言ってるかわからないよ」そう聞こえたのです。
子どもが学習をしていく上で大切なことは、大人の教え込みやテクニックではなく子ども自身が体験し考えること・・・、この「こぐまの理念」を、当の子どもたちに改めて教えられました。

教師側の「今日は理解させることができた!」という感触と、子どもが実際に理解したかどうかは、一致しない場合が多いように思います。カリキュラムが螺旋を描きながら着実にステップアップしていくのに対し、子どもの理解力は不規則に向上していきます。「3カ月の間解らなかったことが、ある日突然理解できた」という事例は数多く存在します。
それなのに、私はあのとき「すべてを理解させよう」と思ってしまいました。もしかすると「理解させる」と思ってしまった時点で、子どもの考える力は育たなくなってしまうのかもしれません。

先週、今期の総まとめテストを行いましたが「うるさい!せんせい」と言ってくれた子どもは、つるかめ算の問題で満点を取っていました。テストでは点数がはっきりしますので、今回のテストを見る限りにおいては、この子は「完璧に理解した」ことになりますが、今はそのことよりも、「うるさい!せんせい」と発言してくれたことに感謝しています。

これからも、子どもが躓いた時、言葉で解決しようとせず、子ども自らが働きかける場面をきちんと作っていくことを常に意識しながら、子どもと共に挑戦していきたいと思います。

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