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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.49「算数を得意にするマクロ環境 問題提起編」

2011年3月25日(金)
こぐま会小学部長 渋谷 充
算数読解力

 「文章題が苦手」。僕が塾の講師として教壇に立ったころから、その算数教育の永遠のテーマとも呼べるであろう課題は常に眼前にあり、指導する生徒の学年、性別、それまでの家庭環境、もちろん算数のセンスなどによりその克服過程はさまざまなストーリーを作るものでした。だからこそ苦手な単元の問題を多くこなせばいいというような場当たり的な指導法にはならず、また、脳内の伝達物質云々とミクロな視点にも偏らず、柔軟にこのテーマを論じることが文章題克服のひとつの道筋であると信じています。
まず前編では数点の文章題をもって問題提起をし、保護者の方々にも一緒に考えてほしいと思っています。
まず1問目は文章題と名のつく初めてのものともいえるこちらの問題

第1問
 「たかしくんはりんごを5こもっています。これはおにいさんより3こすくないです。おにいさんはりんごをなんこもっているでしょう。」

小学1年生かあるいは年長さんか、いずれにせよ一桁のたし算、ひき算を学んだ生徒はだれでも解答可能なはずです。しかしながら「3こすくない」にばかり気をとられて「2こ」と解答してしまう生徒は少なくありません。もちろん、個々の生徒をしっかり眺めなければこれが日本語の習熟度によるものであるのか、数量の操作が苦手なのかはわかりません。
少なくともいえるのは、これまでは日本語の習熟度によるものだと単純に片付けられるか、大量の反復演習で強引に計算技能の暗記をさせるかのどちらかの対処をしてきたということです。
いずれにせよ、この問題が文章題を正確に解答できないことが客観的に見える初期の段階であるということです。次の問題にうつります。

第2問
 「10人のせいとが1れつにならんでいます。あきらくんはまえから6ばんめで、あきらくんとせいじくんのあいだには2人います。せいじくんはうしろからなんばんめですか。」

この問題は答えが2通り考えられますが、ほとんどの生徒が「2ばんめ」と片方の答えのみを解答します。この原因は、まだ未成熟だから日本語の定義があいまいであると片付けることもできます。しかしながら大人はどうでしょう。「あいだ」の定義はもちろんしっかりしている状態ではありますが、この答えを片方のみ答える方はたくさんいらっしゃいます。原因として文章から「せいじくんがあきらくんの後ろ(か前)にいる」と決めつけて考えているからです。大局的には大きな問題はなく、指導を受ければ理解できると思ってしまいます。
ここで重要なのは、この時点での国語力(定義的な意味よりも問題解答力という意味で)が高いからといってこの問題を正確に解答したり、説明をしっかりと理解できるとは限りません。ちなみに大人ではこの問題に一度はひっかかる方はいらっしゃるとは思いますが、説明を聞いて理解できない方はほとんどいないはずです。このことにより、活字としての言語や数量の捉え方の個人差や年齢差についての関連性を掘り下げずにはいられないようです。最後の問題は

第3問
 「xを(正の)整数として、【x】を【 】の中の数字を2つ以上の素数の和で表したときの、その表しうる式の本数とします。
例えば 6は
6=2+2+2
6=3+3
というふうに2種類の表し方があるので
【6】=2です。
8は
8=2+2+2+2
8=2+3+3
8=3+5
のように3種類の表し方があるので
【8】=3です。
では、【15】、【23】はそれぞれどのようになるか答えなさい。」

低学年での文章題をいわゆる「文章題」とした場合、この問題はその直系からは少しずれた感はありますが、高学年における「文章題」が特殊算など技能を追加して見た目の難易度を保っているだけなので、広義において「数行で表現された問題」として捉えてみました。難易度は急に飛躍したようにも見えますが、小学6年生ぐらいであれば「素数」を知っていることが多い(無論、新指導要領では既習内容)のでごく単純な問題です。しかしながらこれまでの問題と比べ正答率は一気に下がる事が容易に予想できます。はっきりいってこの問題は僕が作った“遊び”のようなものなので、このゲームを理解するために試行錯誤してもらうしかありません。この様な問題の質になると、試行錯誤する以前にあきらめる生徒が多数出てきます。文章題が苦手以前の問題です。
逆に算数が得意な生徒はこの問題をさらに発展的に改良してくれることでしょう。

ここまでをご覧いただくだけで、現在、教育と名のつく場面に遭遇している方であれば皆さまざまな思いにかられることでしょう。まとめて、いくつかの問題提起をしたいと思います。

  1. 日本語の習熟度と文章題を解答することの関係性はどのようになっているのか。
  2. 大人になると理解できるようになっている自然成長には、算数力を豊かにするどのような経験が含まれているのか。
  3. 結果として試行錯誤を惜しまない状態とは。

3月27日には先日終了したばかりの2011年度の東大の入試を題材に上記のようなものを論じるセミナー「合格カレンダー連続講座特別版 子どもたちの学力をどう育てるか」を開催いたします。ぜひ足をお運びください。

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