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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.48「幼稚園の力」

2011年3月11日(金)
学習塾 プラウダス講師 石原弘喜
 幼児期は知的好奇心の時期です。それは高温で熱せられたガラス細工のように柔らかく原形がありません。その柔らかい知的好奇心こそ学力の源泉なのです。ガラス細工のように熱くたぎる学力の源泉が、幼児の中に湧いています。

知的好奇心という学力の源泉。幼稚園はそれに満ち溢れた子どもたちが集う場だといえます。子どもたちはそこで家庭にはない「はじめて」という知的好奇心のシャワーをふんだんに浴びます。ガラス職人に息を吹き込まれて膨らんだガラス細工のように、子どもたちは幼稚園でたくさんの「はじめて」を学び、学力の器を膨らましていくのです。

知的好奇心の範囲が広がれば、子どもたちの世界は広がります。それは子どもたち自身の自己が広がることでもあります。しかし、知的好奇心とは知識だけを指すのではありません。集団の中でしっかりとした躾を受け、ルールを学ぶことで他者を意識する。園での生活を通じて、思いやりや敬意という情緒が芽生える。それは大きく膨らんだ学力の器に美しい彩りを与えていきます。その彩りを品格と呼ぶのならば、幼稚園は品格の源泉でもあるのです。

大きく膨らんだガラス細工はやがて冷えて固まります。子どもたちはその器を抱えて、小学校に入学していくことになります。私は4歳児から大学受験生まで教えていますが、学力は年齢に応じて必要なものが異なります。大学・高校・中学・小学校・幼稚園のそれぞれの時期に相応しい学力を伸ばすための教育があります。その中で最も重要な場をひとつ選べと言われたら、私は迷わず幼稚園を挙げるでしょう。学力と品格の源泉。教育の場として、これほど初々しく、瑞々しい場所はありません。

学力を大きくするとは、可能性を大きくするということです。東大に合格したある生徒は、空間的時間的広がりに興味を持ったのは幼稚園がきっかけだったと語ってくれました。実際、生徒のほとんどは、幼稚園で知的好奇心を刺激されたと述べています。それが後の小学校以降の勉強を支える「知的なこだわり」になったのです。

学力低下が叫ばれてから長い時間が経ちます。確かに現場の実感としても、子どもたちの学力が低下しているのは間違いありません。しかし、しっかりとした幼稚園で教育を受けてきた子どもには、長く知的好奇心の炎がくすぶっています。勉強に興味をもてなくなっても、一旦それに火が点くと学力は燃え盛ります。それを目の当たりにするたびに、私は幼稚園の力を痛感するのです。

幼稚園の教育を充実させる。これが学力低下を防ぐ手段のひとつです。脱ゆとりや入試制度改革も必要ですが、学力の器を決める幼稚園の教育をないがしろにしては本末転倒です。幼稚園が力を失えば、学力は底の見えないところまで低下します。幼稚園に力があるからこそ、学校教育改革が成し遂げられることを保護者も行政側も十分に認識する必要があります。

学力と品格の源泉たる、初々しくも瑞々しい場を、私たちはこの国の未来のために守り続けていく義務があります。

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