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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.39「幼小連携ではなく幼小一貫を」

2011年1月7日(金)
こぐま会代表
幼小一貫ひまわりクラブ主宰
久野泰可
 中高一貫教育や小中一貫教育が大きな流れになっていく中で、「幼小一貫教育」の重要性が議論され始めています。自治体によっては具体的な実践も始まっています。以前から「幼小一貫教育の必要性」を訴えてきた私たちにとって、大変好ましい状況だと考えています。幼児期の教育については、「幼保一元化問題」や「就学年齢の1年引き下げ問題」などさまざまな問題がこれまでも議論されてきましたが、一向に解決の兆しは見えません。「子ども園」構想も、政治が絡んで迷走している状況です。入学後1年生の段階ですでに学級崩壊を起こしている「小1プロブレム」の問題も未解決のまま深刻化しています。こうした中で出てきた「幼小一貫」教育構想であるがゆえに、「何を一貫させるのか」についていろいろ議論されてきました。しかし、どう見ても私たちが訴え実践してきた「教科前基礎教育」のような考え方はどこにも見られません。それどころか、最近では「幼小一貫」に変わって「幼小連携」が言われ始めています。「幼小一貫」と「幼小連携」とはどう違うのか。言葉による表現の仕方以上に、その考え方に大きな差を感じてしまうのは私だけでしょうか。

幼稚園や保育園には、小1以降の学年にある「教科書」はありません。何を一貫させるのかという議論を難しくしている原因はそこにあります。一貫させるものが明確でないとどうなるか。小1で学ぶ内容を易しくして下ろすしかないのです。つまり、小学校に入ってから学ぶものを少し早めに教えよう、幼児にもわかる簡単な計算を先取りして行おうということになるのです。しかし、そうした先取り教育を好ましくないと考える人たちがいるのも事実です。そこで出てきたものが「幼小連携」という考え方ではないかと思います。つまり、幼児期の教育を担当しているものと小学校低学年を担当しているものが、お互いに情報を交換したり、現場を見学したりする中で、お互いの理解を深め、その中で一番良い連携方法を考えようというスタンスなのではないかと思います。

「幼保一元化議論」の時も、「就学年齢1年引き下げ」の議論の時もそうでしたが、何を幼児期の教育内容にするかが具体的にならないために、結論に到達しないのです。安易な幼小連携をしても、相互理解は深まるかもしれませんが、そこからは新しい教育内容や教育方法は何も生まれてこないでしょう。なぜか。幼児期に行うべき教育の中身の検討には、子どもの発達の現状や、教科の系統性をしっかり踏まえた研究と実践が必要だからです。今、幼稚園や保育園そして小学校低学年で行っている学習内容をただつなげても、そこに新しいものは生まれてきません。「数の概念はどのように発達するのか」「空間認識はどう獲得していくのか」「国語科の基礎は一体何なのか」・・・そして、「集団活動はどのような経験を積み上げていけばよいのか」・・・そうした中身の議論がないところで「連携」しても、何の解決にもなりません。もっと言えば、今さらなぜ「相互理解」が叫ばれるのでしょう。小学校に送り出す幼稚園や保育園の保育者が小学校でどんなことを学ぶのかを知っておくのは当然ですし、受け入れる小学校側は、入学してくる子どもたちが幼児期にどんな経験やどんな学習をしてきているのか知っているのは当然のことです。それがなされてこなかった事がそもそも問題なのです。こうした誰が考えても当たり前のことが行われてこなかった大きな原因は、昔から言われてきた次の言葉に集約されています。

「幼稚園や保育園では知育は必要ありません。小学校1年生でみな同じスタートラインに立つのですから、先取り教育は必要ありません。幼児期は思う存分遊んでください」

しかし、遊ばせるだけで意図的な教育を何もしてこなかったつけが、今大きな問題になっているのです。私は韓国や中国の教育現場をたくさん見てきました。また中国の幼児教育を主導する著名な学者や園長たちにも会って、話を聞きました。「なんで、日本はあんなにのんびりしているんだろう」と意図的な教育を排除する日本の幼稚園や保育園の現状に驚いていました。

このような日本の幼児教育の現状を見るたびに、1972年発行の「歩き始めの算数」の中で遠山啓氏が訴えていた「原数学」「原国語」「原音楽」といった考え方を、もう一度しっかり受け止めるべきだと思います。幼小連携でなく幼小一貫の立場に立って、「何を一貫させていくのか」を考えなくてはなりません。決して、小学生で学ぶ内容を易しく薄めて幼児期に下ろせばいいという発想にならないようにしなくてはなりません。その要はやはり「教科前基礎教育」「事物教育」の考え方だと思います。

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