ページ内を移動するためのリンクです
MENU
ここから本文です
週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.35「児童英語教育 - 螺旋型カリキュラムに則って」

2010年12月3日(金)
こぐま会 Primary English代表
第一教務部長
廣瀬亜利子
 ピアジェと並ぶ幼児教育の先駆者、ブルーナー(Jerome S Brunner)が「教育の現代化」の中で「螺旋型カリキュラム」という仮説を提唱しています。これによると、「どの教科でも、その何らかの知的なまともな形で、どの発達段階の子どもにも、効果的に教えることができる」(『未来を開く幼児教育』持田栄一著、P.4~5)という考え方です。

たとえばこの考え方を「英語」を例に当てはめてみますと、中1で初めて文法的に触れ、系統だった学習もそれまでは必要ない、という国のガイドラインに対して、「螺旋型カリキュラム」的に考えると、わざわざその年齢に達するまで無駄に待つというのではなく、子どもが英語を始めたその年齢にふさわしい方法と、その年齢の子どもが理解できることばを使ってきちんと教育すれば、中1レベルのことを小1の子でも十分に習得可能だということです。
他の教科については専門外なのでよくわかりませんが、少なくとも「英語習得」の上では、幼児教育同様、大変効果的な考え方だと思います。そしてこの考え方が、私がこれまで実践してきた児童英語の教科法の根底にあります。

英語はそもそも「教科」ではなく「語学」です。誰でも両親の仕事の関係で英語圏の国で2~3年も生活すれば、年齢に関係なく自然に英語を話せるようになるでしょう。一方、日本にいながら、しかも週1回のレッスンで英語を習ってもそう簡単に話せるようになるものではありません。ましてや帰国子女と同じように話せるようになるかといったらそれは不可能です。

しかし、同じ週1回のレッスンを受けている世間一般の多くの子どもたちとの間に大きな差をつけることは可能です。その決め手は、「何をどう教えるか」です。世間では、小学生の間は楽しくゲームしながら、歌を歌いながら何となくことばを覚えつつ英語に慣れ親しみ、系統だった学習は中学生になってから、という考えが主流です。

私にしてみれば、これほど勿体ないことはありません。一方で、小学校1年生でペラペラ英語を話す帰国子女が存在しているわけですから。しかしその帰国生が、幼児のときに海外に行き、どのように英語を習得したかというと、「自然に」であって、決して理屈で文法を習って納得した末に話せるようになったわけではありません。

同様に、日本で生活している5~6歳児に対しても理屈を説明する必要は全くありません。彼らが理解できるように、わかりやすい日本語を使って、彼らの発達に合わせた形で指導すれば良いのです。

たとえば、“I eat bread.”という文を教えるとき、中学生に対しては、「これはSVO構文で、主語+述語(動詞)+目的語という順にことばを並べます。「~を」に当たることばを目的語といいます。英語では主語の次に必ず述語(動詞)が来て、そのあと目的語が来ます。」というような説明になると思います。それに対して幼児や児童の場合ですと、「I 私は eat 食べます bread パンを」一つ一つのことばの意味は説明しますが、構成についてはあえて説明しません。代わりに教師が言ったとおりを繰り返し練習します。何度も練習しているうちに、子どものほうから自然に「いつもはパンを食べていて、今朝はご飯を食べたんだけど、“~食べました”のときは何て言えばよいのだろう」と、過去形を使う必然性を感じ始めます。それに対しては「Ieat breadのeatがateに変わるだけ。そして“いつ”にあたる“this morning” をつけます。」これもまたしばらく繰り返し練習します。中学生の授業では、中1の2学期で修得する単元の一つとして過去形が出てきます。ここではまた「主語+動詞の過去形+目的語」などの文法用語を交えて説明されます。

つまり同じ構文を学習するにあたって、中学生は文法的な解説によって、児童は反復練習によって、結果的には全く同じ到達点に持っていくことができます。むしろ児童のほうがより早く確実に吸収できるような印象すらあります。おそらく頭がより柔軟だからでしょう。

ただ、このやり方は正しく行えば大変効果的ですが、一つ間違えると単なる詰め込み式の早期教育になりかねません。あくまでもその年齢、その発達段階にあった形で教えることが大原則ですので、5~6歳児にとって理解を超えてしまうような難しい日本語を使うことはできません。従って、「過去形」「動詞」「述語」「目的語」などの文法用語もこの年齢の子どもたちには当然使えません。それと同時に、5~6歳児の生活レベルに見合った理解ができていれば十分なのです。楽しくゲームして過ごしている子どもたちとはかなり差があるはずです。

こぐま会の子どもたちがステップ1から2へ、2から3へと、3歳から4歳へ、4歳から5歳へというように螺旋状の階段をはずれることなく上り続けるからこそ小学生や中学生になっても更なる階段を上り続けることができるのだと思います。英語教育も全く同じで、5~6歳から1段1段上り続けていただきたいものです。

PAGE TOP