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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.4「思い込みを破壊する力」

2010年4月16日(金)
プラウダス講師 石原弘喜
「地方から難関大学に合格するなんて、よほど頭が良いのでしょうね・・・」

どこかあきらめが混じったような声色。質問とも独り言ともつかないような親の言葉を耳にすることがあります。確かに、地方から難関大学に現役で合格していく生徒は少なくありません。中には部活動をしながら東大・京大に合格していく者もいます。驚くことに彼らのほとんどは中学受験を経験せず公立校出身であるため、中学受験を経て中高一貫校を卒業した同級生と比べて、勉強の質・量の点で大きなハンデを負っています。冒頭の親のように「質・量のハンデをはね返す何か」を「頭の良さ」だと漠然と考えている方々は多くいますが、それは単に「頭の良さ」でくくられることなのでしょうか。

「質・量のハンデをはね返す何か」とは何か。ぼやけていたその輪郭がはっきりと見えるようになったのは、幼児教育に携わるようになってからです。正解できる幼児とできない幼児の差が、初めて見る問題への対処方法にあると気づいたことがきっかけでした。たとえば、ばらクラスの24週目【推理】の領域では【法則性の理解】を学びます。ここでは図のような【図形系列】のペーパー問題を、具体物で学んだまとめとして扱います。これは法則を見つけて空いている部屋に図形を書き込んでいくのですが、幼児によっては自分が思い込んだ図形を法則を無視して書きます。また、(1)の一番左端に△が入ることを知ると、(2)の一番左端にも機械的に△を入れる幼児もいます。一番左端の部屋にはいつも△が入ると思い込んでしまうのです。


一方、(1)(2)で法則を見つけられても、(3)(4)の問題に答えられない幼児も多くいます。(1)(2)の問題は左側に図形が固まっており、そこに法則の手がかりとなる情報があるのですが、(3)(4)は右側に図形が固まっています。左側だけではなく、右側の図形の情報も使わないと法則が見つけられないのですが、(1)(2)ができた幼児でもなかなかそのことに気がつきません。「法則は左側にある」という思い込みから抜けられず、懸命に左側の図形から法則を探し出そうとするのです。

ここで幼児に右側の図形に注目させます。「法則は右側から見つけ出す」という思い込みを破壊して、新しい視点を与えます。そうして答えを見つけた幼児たちは満面の笑みで達成感と喜びを表現します。これが思い込みを破壊する経験の第一歩となります。すべての経験が新しいという時期は、幼児期を置いて他にはありません。その思い込みが浅い時期に、思い込みを破壊すれば答えが出るという経験を幼児に与えます。そうすることで、思い込みを破壊する力が少しずつ蓄えられていくのです。「思い込み」は「自分の限界の思い込み」でもあります。思い込みを破壊する力は、自分で思い込んだ自分の限界から自分を解き放つ力なのです。

自分の限界から自分を解き放つ――。地方から難関大学に合格を果たしていく大学受験生の姿はここに重ねることができます。彼らは自分の勉強法を徹底的に貫きますが、それが誤りだと確信した途端あっさりと捨て去り、すかさず新しいやり方にシフトします。思い込みを自分の力でやすやすと破壊していくのです。良質の問題やわかりやすい授業は高校になってからでも手に入れることができますが、経験と知識が染みついたその時期に「思い込みを破壊する力」を手に入れることは極めて困難です。実際、これまで多くの大学受験生を見てきましたが、能力があるにもかかわらず志望校合格を果たせなかった生徒のほとんどは、勉強に対する考え方の点で「思い込み」に縛られていました。「思い込みを破壊する力」を介して、幼児教育と難関大学受験はこのような形でつながっているのです。

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