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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

幼児教育は何をめざすべきか

第26号 2014/10/7(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 幼児教育の重要性は認識されても、「何をどう学ぶのか」の議論が素通りされ、「読み・書き・計算」を早いうちからやればよいというような議論がまかり通っています。しかし、一歩間違えると、これまで小学校で問題になった「学力差」の問題が、幼児期に持ち込まれる結果を招くことになりかねません。「文字をどれだけ読めるか」「漢字をどれだけ読めるか」「文章をどれだけ書けるか」「計算がどれだけできるか」・・・ということが教育目標になる可能性が大きくなり、以前小学校で問題になった「落ちこぼれ・落ちこぼし」が幼児の段階から再燃しかねません。「~ができるようになる」という評価項目は、幼児といえども必要ですが、今まで小学校で行われていた評価項目がそのまま幼児に下ろされるようになると、目に見えるものだけに価値があるようなゆがんだ幼児教育がまかり通ることになりますし、競争原理が持ち込まれる可能性が出てきます。

幼児期の基礎教育の目標は、「自ら考え、判断し、自立的に行動できる子を育てる」ことです。「~ができるようになる」ことも大事ですが、それは自立した思考と行動を支える土台になるべきことで、それそのものが自己目的化してしまったら、結果として詰め込み教育が良いということになってしまいます。

将来の教科学習の基礎をつくる幼児期の教育ですから、そこで掲げる目標が、ペーパーテストで判定できる能力の獲得だけであってはなりません。自立した活動を支える、行動力・判断力を支える「考える力」が身につかなければ、それ以降の学習のレディネスになることはありません。その意味で、「読み・書き・計算」が先行するような幼児教育であってはならないのです。では、目指すべき「考える力の育成」とは何なのでしょうか。心理学者のピアジェは、この点を端的に言い表しています。それは、「可逆的思考」ができるかどうかを、あらゆる思考の基本だとみなしていることです。「可逆的思考」とは大変難しい表現ですが、もう少し分かりやすい言葉で言えば、

 「思考の操作を逆にして、出発点へさかのぼって考える」(逆思考)
 「他の立場に立って考える」(視点を変える)

量の保存に関する思考実験を通して、明確に述べたこの「可逆的思考」の重要性は、現場で子どもたちの教育に携わっていると、なるほどと気づくことが毎日たくさんあります。「柔軟な思考力」と表現したり、「相手の立場に立って物事を考えなさい」とよく言われる社会性の問題も、すべてがこの可逆的な思考に結び付いているのです。こうした、将来の学習の基礎となる「考える力」を育てることが、幼児期の教育課題であり、決して、「読み・書き・計算」ではないのです。知育を軽視してきた日本の幼児教育の歴史を考えると、「読み・書き・計算」が目標になることは当然の帰結かもしれませんが、幼児期の教育目標を打ち立てるためには、遠山啓氏が述べた「原数学」「原言語」「原音楽」等、「原教科」の内容を充実させ、確立していくことが必要です。古い考え方を一度排除し、新しい発想で幼児教育の在り方を考えていこうとする雰囲気づくりが必要です。そのために必要なことは、現在の小学校の教科学習の内容を知っておくことと、いま小学校の教育現場で何が問題になっているかをしっかり把握しておくことです。小学校とのつがなりを考える「幼小一貫教育」を打ち出すためには、どうしても必要な作業です。

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