週刊こぐま通信
「行動観察だより」個別課題 「見本制作」
第21回 2013/6/14(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
こぐま会 廣瀬 亜利子

いつもの集団での活動とは違って個別に活動するものなので、その制作活動を通して、子ども一人ひとりの作業能力、処理能力、取り組む姿勢、巧緻性の技能の程度などを確実にチェックできる課題です。いろいろな学校の行動観察テストにおいて、しばしば出題されているのもそのような理由からだと思います。
指示を聞いて指示通りに作業を進めていく「指示制作」では、指示をしっかりと聞けたとしても、説明を正しく理解しその通りに作業できるかというと必ずしもそうではなく、指示の内容によっては子どもたちにとってとても難しく感じることが多いようです。一方「見本制作」では、教師の指示に従うのでなく、手元にある見本と相談しながら作業を進めていけばよいので、できるところから始めるなど、ある意味自由に制作できるという面もありますが、一方で、工程も方法もすべて自分で考えなければならないところに指示制作以上の難しさがあります。そして細部にわたって細かく観察する力も同時に求められています。
今回の制作は、「1枚の色画用紙を三つ折りにして三角柱を作り、それを横に倒して、横長の1面を使ってアジサイの花とカタツムリをアレンジしたものを貼りつける」という内容でした。
一見ありふれた六月の風景をデザインしたものでしたが、その中にぎっしりと評価項目を盛り込みました :

- さっと作業に取り掛かることができる
- 見本を観察して作業の手順を正しく効率よく組み立てることができる
- 画用紙を3等分することができる
- 3等分して3つの部屋に分けた画用紙を平らにして、真ん中の部屋に飾り付けをするということに気づくことができる
- 丁寧にアジサイの花を塗ることができる
- 正しい場所を塗り足すことができる
- 色が正しい
- 2つのアジサイの花を、角度や位置など、正しく貼り付けることができる
- 葉っぱを、線に沿ってきれいに切ることができる
- 葉っぱの葉脈を正しく模写することができる
- 葉っぱを、色、位置、向きなど正しく貼り付けることができる
- 見本通りにちぎることができる
- カタツムリのシールを正しい位置に貼ることができる
- カタツムリの欠所補完ができる
- 見本通りに立たせることができる
- 作業が丁寧である
- 最後まで人に頼らず作業できる
- 集中力を持続させることができる
見本制作ではこのように、一人ひとりが作り上げた作品を通してこれだけ多くの項目について見ることができます。評価観点は大きく分けて、3点に絞られます :
1. 手先の巧緻性課題 | - | 切る、ちぎる、塗る、模写する、貼り付ける |
2. 観察する力 | - | 画用紙を3等分すること 3枚の葉っぱの葉脈は全部違うものだったこと 欠所補完 葉っぱの向き アジサイの花の角度 これらに気づいたか |
3. 取り組む姿勢 | - | 人に頼らない 集中力 |
この中でも特に重要なのは「観察力」です。誰も作り方を教えてくれない分、いかに細部にわたって細かく観察できるか、どのように組み立てられているのかしっかりと全体を見渡すことができるかが、完成見本にできるだけ近いものに仕上げることができるかどうかの決め手となるのです。
今回の作品では、土台の部分が「三角柱」であることに気づけるかどうかがポイントでした。見本は、各自の机の上に横長の状態で置かれていましたので、全く触れずにただ眺めているだけでは、なかなかそれが三角柱だということには気づかなかったようでした。逆に、実際に手で持ってみて、裏返したりひっくり返したり、そしてそれを「平らにしてみる」ということにたどり着いと子どもは、自然に折り目に着目することができたので、ペーパーにおいてはほぼ完ぺきに正答できるようになってきた「長方形の3等分」の方法にさっと結びつき、線を描く代わりに3つの同じお部屋になるように折ればよいのだということに容易に気づいたようでした。
葉脈の模写と葉っぱを貼り付ける向きも、かなりしっかりと観察しないと間違いやすいものでした。3枚とも葉脈の数がそれぞれ異なっていたこと、貼り付ける向きが右だったり左だったりしたことなど、一見すると3枚とも同じに見えるものであっただけに、よっぽど注意深く観察しないと見落としてしまいがちなものでした。
塗り方、切り方、ちぎり方などの巧緻性課題に関しては、皆とても丁寧に作業できるようになって大変良いと思いました。しいて言えば、「糊で貼りつける」が意外なことに、あと一歩二歩という子どもが多いということに気づきました。セロテープと同様、糊はあちこちの入試で出てくる道具のひとつですので、分量や伸ばし方など、扱いには十分慣れておく必要があります。
もう一つの観点である「取り組む姿勢」、これについては全員◎でした。前回見本制作を行ったときは、「これでいいの?」「どうすればいいの?」「わからない~」と連発していた子どもたちでしたが、今回は見事に一言もそのような声は聞こえてきませんでした。一人ひとりの目は真剣そのものでした。
いつもの集団活動を通して、特に最近子どもたちの成長や変化を強く感じることが多いのですが、今回はまた違う角度から一人ひとりの成長を改めて実感することができました。
どうかこのままの調子で、無理をせずていねいに、一歩ずつ頂上を目指して成長していってくれますようにと、祈るばかりです。