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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

身体表現 - 「動物ジェスチャーゲーム」「オリジナル体操」

第20回 2013/6/7(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 前回と今回の2週間にわたって、「身体表現」をテーマに授業を行いました。
「身体表現」と言えば、小学校入試においていろいろな学校でたびたび出題される典型的な課題のひとつですが、「動物模倣」が中でももっとも代表的なものです。
それはおそらく、小学校の体育の時間に身体表現を取り入れている学校がとても多いということと、中学校の体育に至っては、正課としてダンスがあるという事実が、出題の背景にあるのではないかと思います。そして、身体で表現することも、「書く」「話す」「描く」と同様に、人と人がコミュニケートするために必要な手段のひとつであるからというのが一番の理由だと思います。

今回はもっとも典型的な課題である「動物模倣」を1週目に、それを発展させた形として「オリジナル体操を作りと発表」を2週目に行いました。

「動物模倣」は、前回と同じ「動物ジェスチャーゲーム」というゲーム形式にしました。
クラス全体を2つのグループに分け、それぞれのグループから交互に一人ずつ皆の前に出てきて、皆に見られないように絵カードを1枚箱から引きます。そして相手チームに向けてその絵カードに描かれた動物の動作の真似を行います。もし見事に当ててもらえたら、動作をした子どものチームが1点得点する、というルールです。

「動物模倣」はこれまでにも数回行ってきたということもありましたが、その課題自体、子どもたちにとっても抵抗感を覚えるような要素はほとんどなく、多少の個人差はあるものの、むしろ子どもたちにとって、もっとも楽しく取り組める課題のひとつであるようです。特に、ウサギ、クマ、ゾウ、カエル、ペンギン、ヘビ、チョウのうち、最低ひとつかふたつは自信を持って真似できるものが誰にでもあり、普段とても静かで多少引っ込み思案な子どもでも、それを行っている時の表情は本当に楽しそうで自信に満ちています。ただ一方で、「恥ずかしい」という気持ちも動物によっては働くようです。タコ、サル、ニワトリなどはとりわけ抵抗があるようで、これらが当たってしまうとなかなか始められずモジモジ恥ずかしそうにしている子どもがとても多いというのも確かです。

今回、ジェスチャーゲームを行うにあたり、ルールの説明以外に子どもたちに伝えたことがあります :

「動物の真似をして当ててもらったらもちろん1点もらえます。そしてなかなか当ててもらえなくても恥ずかしがらずにサッとできたらもう1点あげますから!自分で考えてとりあえず何かやってみることがすごく大事よ。」

実際に始めてみると、前回に比べて自信度がアップしていました。そして全体として得意とする模倣のレパートリーも増えていました。
くじ引きの箱には、上記の動物以外にアヒル、ウマ、リス、ネコ、ライオン、キリン、カンガルー、イルカが入っていました。もちろんタコ、サル、ニワトリも漏れなく入っていました。

運悪く?それらのカードを引いてしまった子どもたちも、前回は恥ずかしくてどうしてもできなかったのに、今回は「当たるか当たらないかは別として、とりあえず恥ずかしがらずにできたら1点」というのをしっかり意識していたようで、誰一人としてモジモジすることなくサッと始めることができました。結果、全員にダブルポイントをあげることができました。

2週目の課題は「身体表現」そのものでした。
4~5人ずつのグループに分かれて、4拍子×4小節の長さのオリジナル体操(イチ、ニ、サン、シ/ゴー、ロク、シチ、ハチ/ニー、ニ、サン、シ/ゴー、ロク、シチ、ハチ)をグループごとに相談して作るという、同じ身体表現の課題でも「模倣」ではなく「創作」という大変むずかしい課題に挑戦してみました。

これは、数年前の聖心女子学院初等科の試験で、「4人ずつのグループに分かれて雷、雨などをからだで表現する」という課題が出題されたことが今回取りあげた理由のひとつですが、もうひとつ、廃品や段ボールを使った共同制作のときの話し合いとはかなり異質のものだからというのがもっと大きい理由として私の中にありました。制作もののように、材料や道具など、目に見えた、形のあるものが何もなく、「無」の状態から子どもたちの話し合いによって「体操」という動きを生み出さなくてはならない点が大変難しいであろうと思ったからです。
万が一、今回のように、無形のものの制作課題が出題されたときに備えて、経験させておいたほうが絶対によいであろうと思い今回やってみることにしたのです。

予想していた通り、はじめのうちはただ丸く輪になって座ったまま「どうしようか~。」「どうする~?」と互いに問いかけ合っているだけでほとんど話し合いにはならないという状態でした。しばらくたってもそのような状態でしたので皆に声をかけました :

「座っているだけだとわかりにくいし、何もできないで終わってしまうから、とにかくみんな立ちましょう。そして、からだを動かしながら相談してみるといいですよ。そのほうが作りやすいし、お互いにわかりやすいし、アイデアもたくさん涌いてくると思うし。」

ようやく誰かが動き始めると、別の誰かも動きだし、少しずつ全体が動き出しました。
いったん動き始めると次第に皆の顔の表情が明るくなり始め、どんどん積極的な意見が動作と共に出てきました。気がつくと、いつの間にか子どもたちは夢中になって話し合っていました。
中には、4人グループの4人共がしっかりと自分の意見を持っているゆえになかなか折り合いがつかないグループもありました。どうするかなぁと見ていましたら、とても良いアイデアが浮かんだようでした :

「そうだ!いいこと考えた!私たち4人だから、動きも4つだから、みんなできるじゃない。自分がいいと思うのを1個ずつみんなやればいいじゃない。」「そうだね~!」

もう子どもたちは、私たちが入る隙間など全くないほど真剣に発表会に向けて、汗だくになって練習していました。

「はい!ではそろそろ発表会をしましょう。」

ひとつだけ最後まで若干心配だったグループがあったのですが、発表を見て驚きました。
考えに考えた末、「動物模倣体操」で一致したようでした。どのグループも、お互い全く違った発想で、まさに「オリジナル体操」の結集でした。

2週間にわたって行った「身体表現」でしたが、からだで表現することのほうが、ことば以上にむずかしい面が多々あるかと思います。しかし一方で、2つの異なる言語の人同士の会話において、どうしてもことばの壁を越えなければならないとき、「身振りや手振りで表現すること」が大変有効な手段である場合もとても多いと思います。
いずれにしても、コミュニケーションの方法のひとつとして、ことば、文字、描画と同様に必要なものであることは言うまでもありません。

特に2週目の課題を通して、何もないところからでも、子どもたちが話し合い、力を合わせることによってひとつの「ムーブメント」を形に表すことができたということ、その話し合いそのものも含めて、結果はどうであれ、ただ経験し実感してもらえればそれで十分、というつもりでやってみたのですが、私の期待をはるかに超えて、それぞれ作品の内容も本当に立派でした。
子どもたちの発表会、心から楽しませてもらいました。

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