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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

共同制作「紙芝居作り」

第18回 2013/5/17(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 ゴールデンウィーク期間は女子校合格フェアを開催していた関係で通常のクラスはお休みでした。その関係で2週間ぶりの更新となります。

5月7日からまた日常に戻り、子どもたちもそろって元気に顔を見せてくれました。2週間ぶりの行動観察クラス、テーマは「紙芝居作り」でした。

全体を4~5人ずつのグループに分けて、各グループごとにどのような話にするか、どのような場面を描くか、どういう順番にするか、登場人物をどうするか、それぞれの服装、髪形、持ち物、そして誰がどの場面を受け持つかなど、全く何もないところからすべて話し合いによってそのグループ独自の、世界でたったひとつの紙芝居を作るという「大制作」に挑みました。

子どもたちは、紙芝居を見ることが大好きと見えて、「今日は皆で紙芝居を作りましょう」と伝えると、皆口を揃えて「やった~! 紙芝居大好き!いつも見ている!」と喜びの声が上がりました。しかし、いざそれを作るとなると、ほとんどの子どもにとって初めての経験だったということもあり、何をどのように話し合ったらよいのか全くわからないといった様子で、お互いただ黙って見つめ合っているという状況からのスタートとなりました。

しばらく様子を見ていましたが、このまま子どもたちに任せておくだけでは、何もせずに終わってしまうかも知れないと少々不安に感じましたので、今回は、私が少し話し合いのお手伝いをすることにしました :

「5人のところは5場面、4人のところは4場面しかない紙芝居なんだけど、まずどういうお話にしたい?そこから決めなければね!」
「ん~~...... どうする?」
「わからないな~。」と全員。。。
「じゃあ、ちゃんの冒険、ちゃんの探検、ちゃんのピクニック?ちゃんのたからさがし?この4つから選ぶことにしましょう。それならお話も作りやすいでしょうし。どれにしたいか相談してください。」
「私は冒険がいいな。あなたは何がいい?」
「私はピクニックがいい。」
「じゃあどうする?」
「2人でジャンケンすれば?」
「その前にどっちがいいか手をあげようよ。冒険がいい人!」
「はーい!」
「ピクニックがいい人!」
「はーい!」
「え?あなたはどっち?」と両方とも手を上げなかった子に。
「...たからさがしがいい...」
「あ、私もやっぱりたからさがしがいいな。」
「じゃあ、ピクニックは1人で、たからさがしと冒険が2人ずつだから、ピクニックはなしね。たからさがしと冒険でジャンケンして勝ったほうにするっていうのはどう?」
「いいよ、そうしよう。」

結果、このグループは「たからさがし」に決まりました。
これはそのグループの実際の会話を再現したものですが、他のグループもほぼこのような内容で、このようなレベルの会話が交わされていました。はじめは何から話し合ったらいいのか、話し合いのきっかけすら見つからないままただ見つめ合っていただけの子どもたちが、ちょっときっかけを作ってあげるだけで、立派な話し合いに発展するのです。

私は続けました :

「やっと何のお話かが決まったので、次は「ちゃん」は誰にする?動物でも人でもいいから主人公を誰にするのか決めてください。そして名前は何にするのか話し合ってください。」

「主人公は花子さんでいいよね?」
「うんいいよ。」
「じゃあ、男の子は太郎君にしよう」
「いいよ。」と、いとも簡単に決まったようでした。

「花子さん」が主人公というグループが全7グループのうち4グループもあったことが私にとっては驚きでした。他はウサギやイヌなど動物が主人公だったのですが、「花子さん」が主流であったという点が予想外だったのです。

たまたまその会話を耳にした私が一応確認という意味で、「花子さんと太郎君って何か『お話の内容理解』みたいに聞こえるんだけどいいの?」

「うん、いいの。わかりやすいから。クマさんとかキツネさんとかのほうがわからないよ。」
「私たち人間だから。私たちクマじゃないんだから。」
「そうなのね。じゃあ、他に女の子が出てきたら?」
「よう子さん!そして男の子は次郎君。普通はそうだよ!知らないの?」
「決まっているの?」(私)
「そりゃそうでしょ!決まっているの。」
「そうなのね?」(私)

なるほど、この年齢の子どもたちにとって、動物が主人公=「子ども向き」に違いないとそれまで勝手に思い込んでいる節が私の中であったのですが、必ずしもそうでもないのだということを再認識することができた一幕でした。

「お話が決まって、主人公も決まったから、どういう場面を誰が描くか、どういう順番にするか話し合って決めてね。」

「わかった!じゃあ、私5番でいい?」
「いいよ。じゃあ、私は1番でいい?」
「いいよ。」
「私は4番がいい。」
「いいよ。」
ちゃんとちゃん、2人で2番か3番かどっちにするか2人で適当に決めてね。どっちでもいいから。」
「じゃあ、描き始めよう。」と言って、3人の子どもは一斉にクレヨンのフタを開け始めました。

私はその動きを止めました :

「ちょっと待って! 1番とか5番とかって言ってたけど、それぞれどういう場面にするか決めたの?」
「......」
「1番の絵って何を描くの?」
「......?」
「5番の絵って何?」
「......??」
「決めてなかった。」

このように、何も話し合うことなくただ5番、1番と自分の描きたい番号を言い合っているという光景もまたほとんどのグループで見られました。
1番はじめの「何のお話にするか」についてはすばらしい話し合いが展開していたのに、役割分担とか場面設定についての話し合いとなると、なかなか難しいようでした。段ボールを使って行う集団制作のようなものはある程度経験があるでしょうが、紙芝居となるとほとんどの子が今回初めての経験でしょうから仕方ないと思いました。

こうなったら今回は最後まで徹底的に話し合いに入り込もうと決めました。私の誘導に従って今回話し合った経験が、次のときに必ず活かされると思ったからです :

「1番はじめの絵はどういう場面にする?」(私)
「森のおうちからウサギのナナちゃんが出かけていくのは?」
「いいね~、そうしよう。」
「2番目は?」(私)
「分かれ道描きたいな~。でね、分かれ道の右の方に行ったら怖い犬が座ってたのでそっちには行けなかったの。それで、もう一つの道に行ったの。」
「3番目は?」と聞こうとした矢先、
「しばらく行くと野原に出たの。すごく歩いたからおなかがすいてしまってお弁当を食べて少し休憩しました。そこにお友だちのウサギが来ていっしょにたからさがしに行くことになりました。」と3番目の子が咳を切ったように言いました。
「なるほどね。それから次はどうなるのかしら?」(私)
「ゆっくり休んで元気になったので、ナナちゃんはおともだちのウサギさんといっしょにまたどんどん歩きはじめました。すると森の中でキラっと何かが光ったのでそこを2人で掘ってみることにしました。掘って掘って、たくさん堀ったの。掘っているところ描きたいから。」
「土の中から宝石とかたからものがたくさん出てきたので、2人はそれをおうちに持って帰っておかあさんにプレゼントしました。」
5番目の子が1つ前の子の話につなげて自分が受け持つ場面の話を作って行きました。結果、ひとつにつながった見事なストーリーに仕上がりました。
他のグループも、見ているとほとんど同じように1場面をきっかけにしてそこに話をつなげていくという方法で場面をつなげることができていたようでした。

お話作りや場面設定など、子どもたちの話し合いの様子を聞いていると、普段子どもたちが毎晩のように読み聞かせてもらっている絵本がベースになっていることは明らかでした。
実際に制作に取り組むまで、紙芝居というものは、子どもたちにとって、絵本とは全く異質のものという印象があったかのようでしたが、やってみると、ただ形が「本」形式ではなく、場面ごとに1枚ずつになっているだけの違いであると納得した様子でした。
今回の紙芝居制作は、いかにすばらしい作品を作り上げるかということではなく、制作の過程において必要なことの話し合いに参加することに重点を置きました。はじめはどうしたらよいかもわからず途方に暮れていた子どもたちが、話し合いのきっかけを投げかけてあげるだけで、かなり積極的な活発な話し合いが展開されました。そしてそれ以上に、4人ないし5人の意見交換、そのエネルギーがひとつになって、何もないゼロの状態から想像をはるかに超えた立派な紙芝居を作りだすことができたのです。
このクラスとして次に紙芝居を作るのは夏ですが、今回の経験が必ず生かされて、きっと私の誘導なしでも、最初から子どもたち自身の力で話し合い、今回に引き続き2作目の、素敵な紙芝居を生み出してくれるに違いないと楽しみにしております。

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