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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

課題画「年長になってがんばろうと思うこと」

第17回 2013/4/24(Wed)
こぐま会 廣瀬 亜利子
 今回のテーマは「課題画」でした。「年長になって頑張りたいこと」について、子どもたちに描いてもらい、皆で展覧会と発表会を行いました。

前回もお話しましたが、春休み明けに会った子どもたちは、年長になってまだ2~3日目ぐらいでしたが、そのたった1週間前とは比べものにならないほど、本当に「お姉さん」の顔になっていて、「年長児としての自覚」を全員から強く感じました。

「先週みんなと会って、急にお姉ちゃまになったな~って思ったの。年少の子たちはその後どう? 泣いたりしてない?」
「泣いちゃう子もいるよ。でも『大丈夫?』って頭なでてあげたら泣き止んだよ。」
「へ~!すごいわね! 魔法みたいね。さすがお姉ちゃまね!」
自信に満ちた満面の笑顔。

「みんな年長さんになって、とうとう幼稚園も保育園も最後の1年になりましたね。
これからの1年、園最後の1年、何か頑張りたいと思うことない?」
「うん!うん!ある!ある!」
「あるでしょ? 今浮かんできたこと、『頑張ろう』と思うことをお絵かきしてください。」

誰一人として困った顔の子どもがいなかったことは正直、予想外でした。改めて年長児としての自覚をより強く感じました。
ホワイトボードに風船6個が糸で石に括りつけた絵を描いて説明しました :
「風船が6個大きい石に括りつけてあります。この風船を1個ずつゆっくりとお空に飛ばしますから。その間に絵を描いてくださいね。風船が全部飛んでいってしまったところで描くのはおしまいね。そしてそのあと展覧会と発表会をしましょうね。」
「やった~!」
これももっと、予想外の喜ばしい言葉でした。展覧会はともかく、「発表会を嫌がる気配が全くなかったこと」がです。

風船1個が空に飛んでいくのは3分毎でした。
入試における課題画の制限時間は、平均12分ぐらいだと思いますが、今回は余裕を持って楽しんで描いてほしかったので、あえて18分という設定にしました。
風船がまだ1個しか飛ばないうちに「できた。」と言う子がいましたが、「『止め』と言われるまで目いっぱい時間を使って、しっかりと絵を描きなさい。」と伝えると、まだたくさん残っていた余白のところに、背景や人物を描き加え、大変すばらしい絵に仕上がりました。
皆、本当に楽しんで自由な気持ちで絵を描いている様子がとても印象的でした。

「はーい! とうとう最後の一つの風船がお空に飛んでいきました。絵を描くのはそこまでです。先にクレヨンをしまって、展覧会をしましょう。」の声掛けとともに子どもたちはクレヨンを鞄にしまうや否や絵を持って、我先にと言わんばかりに駆け寄ってきました :
「待って。今お席の順番にちゃんと貼ってあげるから、ちゃんと座って待ってて。」

「皆すばらしい絵が描けましたね。ただお姉ちゃまになっただけでなく、絵もすごく上手になったのねー!きちんとていねいに塗ることもできたわね。使っている色もすごくきれいだし、堂々と大きく描くことができたところもとても素晴らしいです。」

皆の絵を全部貼り終えたところで :
「では今から発表会を始めましょう。」
「イェ~イ!」
ひとつずつ順番に、貼ってある絵を指し、その絵を描いた子どもは皆の前に出てきました :
「この絵を描いたのは誰ですか?」
「はい!」と元気な声とともに皆元気に前に出てきました :
ちゃんは、年長さんの間に何を頑張りたいですか?」

「ピアノを頑張りたい。もっともっと上手になりたいの。」
「バレエのおけいこを頑張る。バレリーナになりたいから。もうすぐ発表会もあるし。」
「バイオリンの練習をたくさんする。」
「鉄棒を頑張ります! お兄ちゃんのようにいろいろできるようになりたいの。」
「縄跳びを頑張る。後ろ跳びを練習したいの。」
「前跳びがもっと何回もできるようになりたいの。それから前綾跳びも。」
「幼稚園の年少さんで泣いている子に『どうしたの?大丈夫だよ。』って優しくしてあげたい。」
「年少さんのスモックのボタンをはめてあげたり、お世話してあげたい。」
「あやとりの練習をたくさんして、もっといろいろできるようになりたいの。そして弟に教えてあげて一緒にやりたいの。」
「年少さんたちを園庭に連れていってあげて一緒に遊んであげたい。」
「年少の子と友だちになりたい。」
「お話作って絵本を作りたい。」
「世界地図を描いて、国の名前や場所とかを覚えたい。」
「歌の練習をたくさんして歌がもっと上手に歌えるように頑張りたい。」
「ハーモニカが上手に吹けるように頑張る。」
「体操が上手になりたい。」
これが36人全員の「頑張りたいと思うこと」です。

前回は子どもたちの顔の表情から年長児としての自覚を強く感じたわけですが、今回この課題を通して、子どもたちの心の内にあるものを知ることができました。こんなに幼い子たちなのに、「年長児として今自分が何を一番したいか」という意思をみんなちゃんと持っているのだなぁと感心しながら皆の発表を聞いていました。
そして、きちんと自分の思いが心の中にあったから迷うことなくサッと描き始めることもできたのでしょうし、楽しんで取り組むこともできたのでしょう。
描画は、幼児が自分の気持ちや、楽しかったことなどを表すための、文字に代わる大切な表現法のひとつです。
子どもたちはとても正直で、本当に自分の心の内にあることや、事実については描けるものですが、未経験のことや事実でないことは形をいくら教えても描けるようになるものではありません。もちろん上手、下手というのは多少あるかと思いますが、入試において絵の技術については全く評価の対象にはなりません。今回も、たとえ明らかに幼稚であっても、お世辞にも上手と言えなくても、発表会のときにその絵の説明を本人から聞いたとき、「なるほどね。」と納得できましたし、気持ちもしっかりと伝わってきました。

そして発表の仕方も全員が実に堂々と自信を持ってできました。心の中に思いがあって、絵に表せたとしても、ことばで表現するのはどうも苦手、という子どもが少なからずいます。今回、その子たちもきちんと発表できたことには、正直驚きましたが、同時にとても嬉しく思いました。「一人ひとりの子どもの個性と人格を尊重し、その子の良さを認め評価する」、これは私の指導理念の根底にあります。私がその子を心から受け入れているということを本人が感じ取ったとき、子どもと私の間に信頼関係が確立するのだと思います。
子どもたちにとって、いつもの教室は、自分を全部出していいのだという空気が漂っているのでしょう。
欠点を拾い上げて指摘する前に、まず良さを見つけ出しそれを認め伝えること、つまり「褒めて育てる」、やはりそれが人を育てる上での原点だと思います。

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