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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

遊具を使わずに遊ぶ

第9回 2013/2/8(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
今週は、「グループあそび」を行いました。
先週行った「自由あそび」と違って、「何も遊具がないところで遊ぶ」というのが今回のテーマです。

実際の入試でこれまでにいろいろな学校でたびたび出題されてきた課題です。どの学校も4~5人のグループに分かれて、「室内で」を前提に遊ぶというのが一般的なようです。私のクラスの人数は16名ですので、4人ずつのグループ4つに分かれることにしました。
まず、これからグループごとに何をするのかを伝えました。

「今からグループごとに遊びましょう。」
「わ~!遊ぶんだ!」
「でも今日は、いつもの自由あそびと違って、つみ木とかおままごととか、ボーリングとか遊び道具が何もないの。そしてここは教室でしょ?お外ではないからお部屋の中で遊べることを考えてね。」
「え~?! じゃあ遊べないよー! 何して遊べばいいの!?」
「それをグループで相談して考えるのよ。4人で相談すればきっと何かいい考えが浮かぶと思うわよ。」
「......」
「何も遊び道具はないところで、何ができるか、何をすれば楽しく遊べるか相談して。」
「わかった! かくれんぼ!」「こおり鬼!」
「そうね。かくれんぼも鬼ごっこも楽しそうなんだけど、ここは外ではなくてお部屋の中でしょ?だからお部屋の中でできる遊びを何か考えて。こんなところで、走り回ったらあぶないでしょ?」

「何する~? ...?」と言いながら黙ってお互い見つめ合っていたグループ1。
しばらくしてその中の一人が「しりとりする?」と言うと、あとの3人がそろって「いやだ!そんなのつまらないよ!」
すると別の子が、「プリキュアごっこは?」と言うと、「ダメだよ、そんなの!プリキュア嫌いだし。」そのあとが続かずまた4人とも黙ってにらみ合っていました。

隣りのグループ2をのぞいてみると、
「家族ごっこはどう?私がおかあさん、あなたはネコで、ちゃんは赤ちゃん、ちゃんはイヌでどう?」とリーダー格の子どもが咳を切ったように言いました。まわりの反応はというと「いやだ!そんなの!」と3人とも却下。
「じゃあ、どうするのよ!何するの!?」
かなり長い時間沈黙が続きました。私が4人に向かって「今までに遊んだことがあること思い出してみて。楽しい遊び、何か思い出さない?」
しばらくすると、1人の子が静かに提案しました ; 「ねえ、『なべなべそーこ抜け』は?」
さっき家族ごっこを提案した子が「それがいいね~。」と。
あとの2人が「何それ?わかんない。」と言うと、この遊びを提案した子が「教えてあげる。あのね、こうやるの。」と言って、相手の手を取ってわかりやすく説明しはじめました。「楽しいね。4人でやろう。」4人とも全員一致でこの遊びをすることに決まり、何度も何度も「な~べ~な~べ~そ~こ抜け~!」と大変楽しそうにやっていました。

その様子を見ていたグループ3も同じ遊びを始めました。グループ4はなかなか決まらず困っていた様子でしたが、ようやくジャンケン大会が始まったようでした。お互いになかなか折り合いがつかず、遊びも思いつかなかったグループ1の子たちは、しばらく黙ったままにらみ合っていましたが、その中の1人が私のところにやってきて、「何をして遊べばいいかわからないの。ヒントをちょうだいよ~。」と助けを求めてきました。頑なに「自分たちで考えなさい。」と突っぱねることは私の意に反することですので、さっそくそのグループに向かいました。
「かごめ、あぶくたった、なべなべ底抜け、ずいずいずっころばし、ロンドン橋」を提案し、あそび方も説明しました。私が説明を始めると、他の3グループの子どもたちも自然に遊びをストップして皆私の説明を聞きにやってきました。やっと、このグループ1の子たちは、かごめとずいずいずっころばしに決まりました。4人グループでの「かごめ」なので「小さい籠」でしたが、大変楽しそうでした。

このようにして、4グループとも遊びが始まるまでにかなり時間はかかりましたが、最終的にはどのグループもとても楽しく遊ぶことができました。全体の様子を見ていてすごく良かったことは、グループごとの話し合いのときに一人ひとりが真剣に話し合いに参加できたということです。性格の違いによって、あまり意見を積極的に言えない子から一人でずっと言っている子まで見た目はさまざまでしたし、それぞれの子どもにとっての改善すべき点というのももちろんあります。しかし、気持ちがそこにあるか、人任せにせずちゃんと自分も考えているかということが何より大事で、その点についてはみんな本当に気持ちが入っていて◎でした。入試で、もしこのような課題が出題されるとしたら、評価観点は「話し合いに参加できるか」「遊びを提案できるか」であることは言うまでもありません。話し合いの素地がいくらあっても遊び自体を知らなければ提案できないでしょう。

物が溢れかえっていて、欲しいものは何でも手に入る今の時代を生きる子どもたちにとって、何もない空間から工夫して遊びを生み出すということが、とても難しいことのようだと改めて実感しました。日頃、自分の好きな遊具やおもちゃで遊ぶことに慣れているだけに、何もない空間にからだごと置かれたとき、そういう状況に置かれること自体ほとんど経験がない子どもたちは、どうすればよいのかイメージが全く湧かないのでしょう。

これから入試までの半年余りの期間に、行動観察の授業の中だけでなく、普段の生活の中でも、遊具なしで楽しく遊ぶ経験をなるべく多く持たせるよう導いてください。そして、できればご両親が子どもの頃遊んで楽しかった遊びを、ぜひお子さまに伝授し一緒に遊んでいただければ、お子さまにとっても良い思い出として強く印象に残るでしょうし、子どものあそびの経験値を上げる上でもとても効果的だと思います。

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