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週刊こぐま通信
「行動観察だより」

模造紙を使った共同制作 - 楽しく学ぶ工夫 -

第10回 2013/2/15(Fri)
こぐま会 廣瀬 亜利子
「行動観察だより」の連載をはじめて、今週で第10回を迎えました。クラスの子どもたちと出会った初回からこのコラムを綴っていますので、みんなとのお付き合いもいつの間にかもう3カ月余りということになります。

はじめてのクラスの日、「はじめまして!」と元気にあいさつしてくれた子どもたちでしたが、今と比べてみると、やはりあのときは少し不安そうな顔をしていました。「これからこのクラスで何をするのだろう?」「先生は恐くないのかしら?」と、私のことや授業の内容など、子どもたちにとって未知のことに対して、不安に思い、警戒心を持つのは当然のことでしょう。それが10回の間に、子どもらしく自由な行動の妨げになるような不安要素が全くないこと、警戒しなくても大丈夫だということを、子どもたち自身がそれぞれ肌で感じ取ったのでしょう。みんな安心して身を預けてくれているなあと実感できるようになりました。純粋に自分らしさを100%出せるように変わったのです。

今日のテーマは「共同制作」でした。今週は、クラスがちょうどバレンタインデーの前日だったので、カリキュラム上にはない「番外編」として「チョコレート作り」も行いました。共同制作に入る前のほんの短時間を使って行ったのですが、全く予期していないサプライズだったということもあり、子どもたちは心から大喜びしてくれました。
子どもの心から嬉しそうな顔を見ていると、こちらまで本当に幸せな気持ちになります。そして、私たち大人にとってはこんな些細な単純な活動でも、子どもたちにとってはとても大きい意味のある活動になり得るのだなあと強く感じました。ちょっとしたことで、これほど子どものモチベーションを上げる効果があるのであれば、家庭でペーパーに取り組むときなど特に、何か楽しい工夫をすることで学習効果も倍増するだろうと思いました。

チョコレート作りに続いて、本題の「共同制作」を行いました。第3回でも共同制作を行いましたが、その時は段ボールを使っての制作でした。今回は、模造紙の上に、「お店屋さん」など、グループごとに相談して決めたものを制作するというものでした。
前回同様、実際の入試当日と同じように4~5人ずつのグループに分かれて活動しました。材料置き場には、折り紙、色画用紙、スズランテープ、紙テープ、モール、発泡スチロールの容器や球状のもの、ストロー、ペットボトル、空き箱、紙コップ、ガムテープ、はさみ、セロテープなどを揃えました。そして、今回は、クレヨン、ペンなど「描く」ための道具は一切無く、色を付けたり模様を描く代わりに必要な色の紙などを切って貼るということを課題にしました。つまり、「模造紙の上に切って貼る制作」というのが今回のテーマでした。

チョコレート作りの時点ですでにグループに分かれていましたので、そのままの状態で制作についての説明をしました。もともと10回目の授業にして皆すっかり素を出し切れるようになり、警戒心も不安感も全くない素の子どもたちですが、更にチョコレート作りでますますテンションが上がっていて、いつも以上にやる気満々の力強いエネルギーがガンガン伝わってきました。そして何よりも驚いたのは、子どもたち全員が、一斉に話し合いを始めたことです。黙ったままの子どもは一人も見当たりませんでした。

前回の段ボール制作のときは、意見を言う子もいましたが、全く口を開かず聞き役に徹していた子もいました。作業が始まってからも、協力的な子もいれば協力できず人任せな子もいました。元気で、発言も活発ではあるものの、自己中心的で、お友だちの意見をあまり聞いてあげることができない子もいました。それでも皆あのときは本当に初心者でしたし、不安感が多少ある中での活動だったはずです。だから、少々口調が強くても、発言できたことを評価しました。おとなし過ぎて発言できなくても、気持ちがそこにあること、人に譲れたことを評価しました。そして、あれから2カ月余り経って、というよりはまだたった2カ月しか経っていないのに、子どもたちはすごく変わりました。
今回はというと、一人ひとりが心から話し合いに参加し発言し、それだけではなく、お互いの意見を尊重し合うこともできていたのです。これは毎年夏過ぎあたりにようやく普通に見られる光景なのですが、今回まだクラスが始まって、たった10回目にもかかわらず、本当に全員文句なしの100点満点!でした。私としても、子どもたち自身の期待以上の変化に本当に驚いたと同時に「チョコレート作り」も少々効果を上げるために貢献したかな?と思うとますます子どもたちが愛おしく思えました。

夢中で話し合っている子どもたちの様子をグループごとに覗いてみました :
グループ1では、リーダー格のAちゃんが「何にする?」と口火を切りました。
「チョコレート今作ったからチョコレート屋さんはどう?」とBちゃん。
「うん...でも、茶色ばっかりだからつまらないんじゃない?」とCちゃんが反論すると、
「でもいろんな色のチョコレートがあるんだよー。」とBちゃんもまた反論。
突然Dちゃんが「アイスクリームは?」と提案しました。この子が自ら提案したのは今回が初めてでした。
「あー、それはいいね! アイス屋さんがいいと思う。」とAちゃんとCちゃん。
Bちゃんも納得したようで、「じゃあ、すてきな看板とかも作らなくちゃね!」
「大変だねー!頑張らないとお時間になっちゃうよー。」
「アイスもいろいろ作ってお店に並べたいしね。」
「じゃあどうする?私看板作りたい。」
「いいよ。私はアイスクリーム。」
「私もアイスクリーム作りたい。」
「私は看板手伝って、飾り付けとかする。」という調子で
実に軽やかに話し合いが進みました。モールを折り曲げて「あいす」と描かれた看板は見事でした。いろいろなトッピングが施されたアイスクリームも作り手によってとても工夫されていました。カラフルでひとつひとつとてもおいしそうなアイスクリーム屋さんができました。

グループ2はというと :
「お洋服屋さんとかどう?」とちゃんが提案すると、
「え~? 何を売るの?」とちゃん。
「お洋服だよ。スカートとかワンピースとかTシャツとかよ。」とちゃんが説明したのを聞いて、
◎ちゃんと●ちゃんは「いいね、いいね!それがいい!」
「私はお洋服屋さんでいいけどお洋服じゃなくてお金を作る。」と◇ちゃんがきっぱり。
「でも、本当にお洋服屋さんでいいの?」と初めにお洋服屋さんを提案したちゃんが、
何を売るのかよくわからなかったちゃんを気遣っていました。
ちゃんは、「果物屋さんは?」と初めのうちは皆に向かって一人別の提案していましたが、そのうち「お洋服屋さんのほうが作るの難しいけど、素敵だからそれでいいよ。」と同意し、それからは、素敵なスカートやTシャツなどを色画用紙で器用に裁断して作り、大活躍でした。お金を作っていた子は、お金作りとお店の飾り付けを主に請け負っていました。各自分担して作った洋服の数々を、皆で最後にさっと模造紙の上に配置し、実に手際よく貼り付けて、大変色使いのきれいな、とてもお洒落なお洋服屋さんが完成しました。

グループ3は、たまたま静かな子たちが集まったグループでした :
「もうじき春だし、お花がきれいだから、お花畑はどう?」とaちゃんが静かに提案しました。
すると、普段すごくおとなしくて、いつもニコニコしながらも黙って皆の動きを見守っていることが多いbちゃんが、「だったらお花屋さんがいい。」と自分の意見をはっきり言えたのです!
「私もお花屋さんがいい。だってその方がいっぱいいろいろなお花があってきれいだから。」
ちゃんもお花屋さんがいい。だってチューリップとかスズランとか作りたいの。」とcちゃんとdちゃん。
「スズラン?」とaちゃんが聞くと、
「スズランきれいなの。あとで作ってあげるね。」とdちゃん。
「うん。ありがとう。じゃあ、私はチューリップを作る。」と、始めに「お花畑がいい」と言ったaちゃんも、皆の意見を聞いた後あっさり同意して、チューリップ作りに意欲的でした。
チューリップ、スズラン、バラをはじめ、水色、紫、赤、オレンジなど色とりどりのお花の制作が始まりました。折り紙をただ切って貼るだけではなく、紙コップ、発泡スチロールの容器を使って工夫を凝らし、メンバー全員作り方の発想がとても豊かで、創意工夫が見られました。そしてとてもきれいなお花屋さんができ上がりました。

制作時間は話し合いも含めて25分ほどでしたが、話し合いが前向きであったことと、制作において、一人ひとりが自分の役割を明確に理解し協力的に動けた点が本当に素晴らしかったです。また、今回セロテープやガムテープ、はさみなどを意図的に少なめにしか用意しませんでした。また、材料は必要なものをその都度3グループ共有の場所に取りに行かなければならないという設定で行ったのですが、グループ内でお互いに道具を譲り合うだけではなく、他のグループのこともお互いに気遣い合って、ひとつの材料を独占しないというような意識が芽生えてきたことも感じ取ることができました。この点についても高評価に値することは言うまでもありません。

子どもの中で、不安要素が何もなく、安心して「素」を100%出しきることができたとき、どんな子どもでも本来持っているはずの「本当に子どもらしい素直な良い子」の姿が表に現れてきます。受験準備のためだからと言ってピリピリした空気を吸う必要は決してありません。むしろ「受験に向けてピリピリした環境の中でより厳しい方がよい」などと言う意見がどこかにあるとしたら、それはその指導者の受験に対する考え方が間違っています。学校側も「無心になって遊びや活動に取り組めるメリハリのある子ども」を求めているのです。お行儀や人とのやりとりをわざとらしく教え込まれたような子どもなど決して求めてはいません。

今回の子どもたちの一連の活動の様子を通して、やはり「子どもは褒めて育てるべき」「楽しく学べる工夫をすべき」という指導者としての私の理念は間違っていないことを改めて実感した次第です。

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