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週刊こぐま通信
「合格者からのアドバイス」

合格者からのアドバイス(18)

2008/06/20(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可
入試を終えて、今どんな感想をお持ちですか。どんなことでも結構ですから、今後受験される方のために、アドバイスをお願いします。

 私どものお受験は、年中の11月に新聞広告を見て、漠然と家の近くの某幼児教室に通い始めたのが始まりでした。諸事情から週末しか通えず、主人にも連れて行ってもらえるように近くを選んだ次第です。数ヶ月通いましたが、授業は過去問を解いていくだけで系統性がなく、絵や体操を含め先生がおっしゃったことをただこなしていくのみで、暗中模索の状態でした。そのような時にこぐま会を知ったのです。たくさんの方が合格され、何よりも事物に基づく教科前基礎教育が気に入り、遅ればせながら年長になって入会いたしました。
 こぐま会では、子どもの能力時期に合わせて考え方から教えてくださいますから、娘は見る見るうちにお勉強を理解するようになりました。定期的にあるテストに向けて家庭学習を進めていきましたが、このようにしていくと、合格できる内容を網羅できるのです。もちろんお勉強だけでなく、家庭での生活のあり方も、お受験を考えるうえで見直しました。
 ですが、子どもとの関係や私の心の中は、順調に進んでいったわけではありません。学校見学に始まり、お受験に関わるすべてのものを、約6ヶ月で完成させなければならず、忙しさの中、焦りや苛立ちなどは大変なものでした。そんな中、私どもの家庭では、主人がいいクッション役を担ってくれていたと思います。娘と家庭学習をしてくれたり、遊んでくれたりと主人のおかげでお受験ムードがずいぶん和らいでいました。娘にとっても6歳という時期は大きな成長の時であり、親の言われるままに行っていたことを、徐々に意思を持って取り組むようになりました。
 このように過ごして参りましたが、いよいよお受験の本番の日です。合格・不合格と結果が分かっていく中、第1希望である某小学校の試験当日となりました。事前にエプロンをつけるかもしれないという情報が入り、娘に「前でちょう結びしてから後に回しなさい」と教えました。試験終了後、娘に試験の様子、特にエプロンの出来を聞くと、「後ろでちょう結びを挑戦したが、できなかった」とのこと。私は、なぜ親の言う通りにしなかったのかと叱りました。娘も叱られ落胆した様子でした。数日後、娘の発言をもう一度考えてみましたが、娘は「挑戦したかった」と言ったのです。私ははっと我に返り、試験と言う緊張の中、娘はよくがんばって挑戦できたと思いました。すばらしいと思いました。その反対に私は、目先の合格だけにとらわれ、あのような助言を与え、娘を叱ったことを後悔しました。私は娘から、挑戦する心を教えてもらったのです。合格はいただけませんでしたが、何よりもこれから娘が歩んでいく上で一番大切なことを既に身につけていた娘を誇らしく思いました。お受験を通して、ここまで成長した娘を心から褒めてあげたいと思います。
 最終的に思っても見なかった学校から合格を頂くことができました。今では、娘の成長が期待できるぴったりの学校だと喜んでいます。

 基本クラスは私のクラスではありませんでしたが、学校別クラスで、何回か指導した子どもです。誰よりも物事に興味関心を示し、集中して取り組む姿勢を持っていました。負けず嫌いな面もある元気な子どもでした。エプロンを後ろでちょう結びすることは授業でも良く取り上げますが、簡単にできるものではありません。こま結びはできても、見えないところに「ちょう結び」で結ぶという作業は、かなり難度の高い課題です。だからこそ、入試で出されるのですが、評価の観点は、必ずしも「できた-できない」だけではないと思います。物事にどのように取り組むか、その取り組む態度を観察しているはずです。できたからよくて、できなければダメと言うわけではありません。手先の巧緻性に関するこうした問題はよく出されますが、簡単にできない課題を出す理由のひとつは、取り組む態度を見るには、簡単にできてしまわぬほうが好都合だからです。私たち教師を含め周りの大人は、こうした課題が試験に出されると、「できた-できない」で判断しがちですが、もっと大切なことがあるはずです。学校側は結果だけでなく、取り組む過程を見て子どもを評価しているはずです。

エプロンの場合も、ちょう結びでできることにこしたことはありませんが、できないからと言って評価が0ということではないはずです。前で結んで後ろに回せばよいと判断する大人の発想が、実際の試験で高い評価を得られるのかどうかは、考えてみる必要があります。「挑戦したかった」という本人の言葉の中には、「後ろで結ぶように」と先生から指示されたので・・・ということも含んでいるはずですが、できないかもしれない不安を抱えながらも、この子は挑戦したのです。

家庭での受験対策では、こうした教え込みをしているケースがたくさんあるのではないかと思います。そうした教え込みこそが受験指導だと勘違いしている指導者が大勢います。しかし、本試験で子どもががんばった様子から、間違いに気づいたこのお母さんは、お受験を通して、何物にも変えがたい「宝物」を得たのだと思います。それは、これから続く、山あり谷ありの長い子育ての中で、必ず生かされていくはずです。合格と引き換えに、大切なものを剥ぎ取られていくような「受験対策」にならないよう、この方の貴重な意見を参考にしてください。

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