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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「四方からの観察」は何を求めているのか

第474号 2015/3/6(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 今週のばらクラスは、位置表象の課題の中で一番入試に絡む「四方からの観察」です。一度、出題数が少なくなった問題ですが、最近の入試で再び注目されています。何が違うのか。以前はほとんどが具体物を使って問題がつくられていましたが、最近は、多くが半具体物であるつみ木を使って出題されています。ではなぜ、「四方からの観察」が重視されているのでしょうか。それは、「空間認識」の成熟度を見るには一番良い問題だからです。この問題の原型は、認識心理学者である「ピアジェ」の行った有名な思考実験です。高さの違う3つの山を使って、どこから見たらどのように見えるか、というものです。その問題を基本に、「ひとりでとっくんシリーズ」を作る際に我々が「四方からの観察」と命名したものが、今多くの学校で取り上げられているのです。そうしたことが、ひとりでとっくん100冊は小学校入試の隠れた教科書、と言われる所以です。
この大事な課題の基礎理解を、今週のばらクラス(授業の流れはこちら(「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない(33):位置表象4「四方からの観察(1)」 」をご覧ください)で行いました。この問題のポイントは、その場に行かないで、ものの位置関係を理解するということです。その際問題になるのが左右関係です。向かい合った場合の左右関係が自分とは逆になるという認識がまず必要です。それは、以前学習した「左右関係の理解」に含まれている大事な課題です。ですから、「四方からの観察」は、別名「前後左右関係の理解」と呼んでいますが、まさしくその通りで、左右関係がしっかり掴めないとできない課題です。

この難しい課題をどのようなプロセスで子どもたちに理解させていくのか。さまざまなレベルの問題に対処するために、次のような原則を踏まえたトレーニングが必要です。

(1) まず、場所が違うと違って見えるという実感を持たせる
(2) そのために、1つのものを4つの方向から写生させる
(3) 同じものを描いたのになぜ違うのか・・・場所が違えば違って見えるということを実感させる
(4) 実際の場面で、4つの方向から描いた絵を見せ、どこから描いたものかイメージさせる
(5) ペーパー上の4つの場所から描いた絵とその場所を対応させる
(6) その中でも反対からの見え方に絞り込んだ問題を解く
(7) 反対からの見え方は、選択するだけでなく自分で描き表すことができるようにする
(8) ひとつの物から2つの物、3つの物に数を増やして同じように行う
(9) 具体物から始め、最後は「つみ木」のような半具体物を使って行う
(10) 鏡への映り方と反対から見た見え方とを区別できるようにする
(11) 4つの見え方を提示し、実際の物はどのように置かれていたのかを推理する
(12) つみ木の場合は、前後左右だけでなく上下も加え、6方向とする

こうした、子どもたちの理解度と問題の難易度を組み合わせながら、授業の内容を考えていくわけですが、初めてこの課題に取り組んだ今の子どもたちの理解の現状は、以下の通りです。

1. 全て自分の見え方と同じだと考えている子も少なからずいる
2. 特に反対からの見え方を自分と同じだと考える子が、3分の1くらいはいる
3. 4つの場所を線結びする問題はできても、そのうちの一番難しい場所1つだけを聞くと間違える子が目立つ
4. 選択はできても、自分で描き表すと間違える子も目立つ
5. 具体物はできても、つみ木のような半具体物になると間違いが目立つ
6. 鏡の問題とセットになって出されると混乱する場合が多い

こうした、できたりできなかったりする現状を一刻も早く克服するには、子どもの試行錯誤がどうしても必要です。ペーパー問題を解くコツはあるにしても、それを教え込むところからスタートするのではなく、時間がかかっても、我々が授業で行っているような順序性を踏まえた学習を行うべきです。通り一遍の問題ができても、本当のことが理解できていないと、多様化した問題には対処できないでしょう。

最近の入試では、次のような問題が出題されています。

四方からの観察-1
男の子と女の子がテーブルに向かい合って座り、カメラで相手を撮った写真があります。
  • 写真の中で、テーブルの上にあるものの映りかたがおかしいものはどれですか。右の縦に並んでいるものの中から選んで×をかいてください。

四方からの観察-2
  • 上のお部屋を見てください。ここにあるつみ木を真上から見たら、どのように見えますか。下から選んで青いをつけてください。

四方からの観察と鏡映像
机の上のウサギのぬいぐるみを両側から花子さんと太郎君が見ています。ウサギのぬいぐるみは片手にボールを持っていて、机の向こう側には鏡が立ててあります。
  • 花子さんから見るとどのように見えますか。右から選んで、上のをかいてください。
  • 太郎君から見るとどのように見えますか。右から選んで、上のに×をかいてください。
  • 向こう側の鏡にはどのように映りますか。右から選んで、上のに◎をかいてください。


四方からの観察は空間認識の発達度を見る問題ですが、もう一つ別な意味で重要です。それは、論理的思考力の育成にとって大変重要な「視点を変えてものを見る」という物の見方です。自分の視点だけでなく他人の視点を持つということは、人間関係にも言えることで、そうした柔軟な思考法が基本的なものの考え方にとって重要であるということです。ピアジェの言う「可逆的な思考」は、そうした違った視点を持つことによって可能になるのです。

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