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週刊こぐま通信
「知育を軽視する日本の幼児教育が危ない」

何を学習課題にするか KUNOメソッドの実践(2) 位置表象

第33号 2015/1/27(Tue)
こぐま会代表  久野 泰可
 こぐま会では、図形学習の基礎として「空間認識をどう育てるか」をテーマとした「位置表象」の学習を重視しています。この領域では、次のような課題を学習の柱に立てています。

1. 前後の理解
2. 上下の理解
3. 左右の理解
4. 方眼上の位置(上下左右関係の理解)
5. 四方からの観察(前後左右の理解)
6. 方眼上の移動
7. 地図上の移動
8. 回転位置移動

この8つのテーマは、子どもたちの日々の生活に即し、年齢に応じた学習内容を考えていますが、この位置表象の学習の中で一番重要なのは、「左右関係の理解」です。左右関係の理解は、自分の右手・左手の理解から始まりますが、向き合った相手の右・左が、自分とは逆になるという関係にあるために、自分以外の立場から見た右・左の理解は大変難しいようです。その後学習する「四方からの観察」や「地図上の移動」の課題では、左右関係の理解が絡むため、子どもたちも大変苦労します。それは「視点を変えてものを見ることができるか」という、思考力の育成にとって大変重要な課題が含まれているからです。

「四方からの観察」は、認識心理学者であるピアジェの実験をもとに、私が独自に考えたカリキュラムですが、私の授業を参観された内外の多くの研究者に「大変素晴らしい内容だ」と評価していただいた課題です。その授業内容の一部をここに紹介しましょう。

位置表象4 「四方からの観察(1)」
ひとつのものを異なる場所から見ると、見え方が変わることを経験する。それぞれの場所からの見え方を、その場に行かずに推理できるようにする。

1. ヤカンの写生
a. ヤカンの四方を囲んで座り、自分の座っている場所から見えたとおりに写生する。
b. 写生したヤカンの絵を並べて、それぞれがどの方向から見たものかを考え、話し合う。

2. 場所さがし
a. カードを4枚渡される。指示されたカードが、ヤカンをどの方向から見た絵かを考え、その場所に座る。


b. 教師の座った場所からヤカンがどのように見えるかを考え、4枚のカードの中から正しいものを選ぶ。


c. 反対側から見たらどのように見えるかを考え、4つの絵の中から正しいものを選ぶ。
例)くまのぬいぐるみ / じょうろ / 花びんと花
3. ペーパートレーニング

ヤカンの写生を通して、「なぜ同じヤカンを描いたのに、友だちと違う絵になってしまうのか」、「それは間違いではなく、座る場所が違えば違って見える」・・・という理解から始まり、さまざまな課題に発展していく内容が、子どもの理解に合わせて深化していくという点を高く評価していただいたのでしょう。写生という具体的な経験から、最後はワークブックで確認していく手法の中に、基礎から応用へ、具体から抽象へという、基礎教育の原則が盛り込まれていることへの評価だと理解しています。

幼児に何とかこの難しい課題を理解させたい、その一心で積み上げてきた実践が評価されたのだと思います。「事物教育」を含めたこうした手法で、小学校低学年の学習内容も組まれていけば、もっともっとダイナミックな学習が可能になり、子どもたちも飽きることなく集中して取り組んでいくはずです。「小1プロブレム」が起こる原因の一つは、こうした魅力ある授業が少ないというところにあるように思います。幼小一貫教育は、小学校の内容を薄めて下ろすのではなく、幼児期の基礎教育の手法を小学校教育の中に取り込んでいくことが大事です。小学校低学年を担当する先生方にも、こうした幼児期の基礎教育の内容をもっともっと知っていただきたいと思います。

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