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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

「聞く」「話す」をもっと大事に

第595号 2017/10/6(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 2016年12月6日に公表されたOECD生徒の学力到達度調査(PISA)によると、日本人の成績は科学的応用力が第2位、数学的応用力も第5位で、2006年度以降順位を上げているようです。ところが読解力は、前回の4位から8位へランクダウンしているようです。日本語独特の問題や、パソコンの操作力に差が出たともいわれていますが、いずれにしても読解力が弱いのは確かなようです。ほかのテストにおいても、いつも言われるのは「読解力・応用力・記述力」が弱いという点です。そのため記述式の解答が求められた場合、白紙にする率が高いようです。さまざまな理由があるとしても、暗記中心の教育がもたらした一つの結果であることは間違いありません。

例えば算数でいうと、計算はできても、立式の理由や計算過程の説明を求めたり、理由を記述させたりすると突然できなくなります。日本の算数教育は、全体として計算さえできればいいという「計算主義」の考え方がはびこっているように思います。この考え方が変わらない限り、応用力が身につかないという問題は解決できないでしょう。子どもの「読解力・思考力・記述力」を伸ばすチャンスはたくさんあるはずなのに、そこに気づかないのか、気づいていても面倒なので素通りしてしまっているのか、教育現場でのちょっとした工夫で解決の糸口が見つかるはずなのに、それができていません。その結果、算数においては、計算はできるけれど文章題になるとお手上げ・・・という子どもたちを大量に生み出しているのです。

9月23日配信の読売新聞では、新聞や教科書などを読み取る基礎的な読解力を身に付けないまま、中学を卒業する生徒が25パーセントに上ることが、国立情報学研究所・新井紀子教授らの研究チームの初調査で明らかになったことを報じています。中学3年の4人に1人が教科書レベルの基礎的な読解力を身に付けないまま、義務教育を終えていることになり、深刻な問題です。いったい何が問題なのでしょうか。幼児期の基礎教育に携わっている立場から、この問題を真剣に受け止め、何が必要なのか、また遠山啓氏が述べた「原国語」の内容を考えなくては・・・といつも思っています。その一つのカギとして、国語の4本柱である「聞く力」「話す力」「読む力」「書く力」のうち、軽視されがちな「聞く力」と「話す力」にもっと力を入れなければいけないのではないかと考えています。最近は年長児の子どもたちに、答えの理由説明をさせるだけでなく、3~4人のグループで話し合わせて、答えを導き出す授業も取り入れています。自分の意見を言うだけでなく、友だちの意見を聞いて一緒に考える経験を持たせることが大事だと考え、実行しています。予想もしなかった話し合いが、年長児にもできるという事実を確認し、こうした形の教育をもっと推進すべきだと考えています。理由などを記述する前にみんなで話し合い、「考える」経験を持たせることが大事だと思います。文章に書かれた内容を、読解術で解いていくだけでなく、文章で何を伝えようとしているのか、その内容をまず理解することが大事です。文章の内容理解のないまま、答えていこうとしたら、技術論に陥るだけです。

こんなことを考えていましたら、9月24日配信の読売新聞に次の記事が掲載されていましたので、その冒頭部分をご紹介します。

「読み聞かせ、小学生でも続けて・・・」
本の読み聞かせは子どもの想像力を育み、親子のコミュニケーションにも役立つ。ところが、小学生になったのを機にやめてしまう家庭も少なくない。有意義な習慣から「卒業」してしまうのはもったいないと専門家は指摘する。

私の教室では、休み時間になると、ほとんどの子どもたち(年長児)が棚にある絵本を取り出して、1人で黙々と読む光景がよく見られます。それだけ絵本が好きな子どもが多いのでしょう。それなのに、それが小学生の読書時間の確保につながっているかといえば、どうもそうではなさそうです。絵を見ながら、それを頼りにイメージを膨らませながら読んでいく場合と、文字だけを読んでイメージする楽しさの違いもあるかもしれません。子どもにとって、自分で本が読めるようになるという楽しさは十分あると思いますが、文字が読めるようになったから、あとはすべて自分で・・・というのも違うように思います。「読み聞かせ」は、聞いて楽しむ、聞いてイメージを膨らませる、読み手と話を共有するといった大事なこともたくさんあるはずで、1年生になったからといって読み聞かせをやめてしまうのは、私ももったいないと思います。それ以上に、コミュニケーション能力の一つである「聞く」力を育てるためには、読み聞かせは続けるべきだと思います。

読解力が弱い・記述式になるとお手上げ・・・ということは、もしかしたら、聞いてイメージする、聞いて相手の言い分を理解する、自分の考えを言葉で表現するといった幼児期の大事な経験が、「読み・書き・計算」の中の「読み・書き」に集中してしまう結果、おろそかになってしまっているのかもしれません。考えていることや感じていることを言葉で表現する経験が少なければ、将来の読解力も作文力も高まらないのは、当然の帰結だと思います。国語教育の基礎として、幼児期に何をなすべきか、新しい視点からいろいろな試みに挑戦していかなければならないと思います。その一つの試みは、「聞く・話す」をもっと大事にし、「読み・書き」に流れがちな今の教育を、もう一度根底から疑ってみる必要があるのかもしれません。

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