週刊こぐま通信
「室長のコラム」対話教育の実践
第587号 2017年8月4日(金)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

夏季講習会の総合力完成講座(年長)で、「銀行ゲーム」として「交換」の授業を行いました。
種類の違うコインを取り換えっこするという内容で、その約束は次のとおりです。
- クマのコイン1枚で、ウサギのコイン2枚と換えてもらえます。
- ウサギのコイン1枚で、カメのコイン3枚と換えてもらえます。

この約束を理解させてから、子どもたちに銀行員の役をやってもらい、劇のように授業を展開します。
まず、「銀行にいろいろなお客さんが見えて、みんなにお願いしますので、できるときは「いいですよ」、できないときは「だめですよ」と言ってください」と約束してから、進行します。
- 太郎君がクマのコインを2枚持って、銀行にやってきました。
「すみませーん。これを、ウサギのコインに換えてほしいんですけど」
すると間髪をいれず、「いいですよ」と答えが返ってきます。
「では何枚に換えてもらえますか。その数だけおはじきを取ってください。」
この質問にはすぐに4枚と答えられます。 - 今度は、花子さんがカメのコインを9枚持って、銀行にやってきました。
「すみませーん。これをうさぎのコインに換えてほしいんですけど」
「いいですよ」と3枚のおはじきを取ります。その理由を聞くとみんなが手を上げます。1人の子に前に出てもらい、理由の説明してもらいます。
カメのコイン9枚を、3枚ずつまとめ、「この3枚でウサギのコイン1枚でしょ。だから3枚なの・・・」 - 今度は、次郎君がカメのコインを12枚持って、銀行にやってきました。
「すみませーん。これをクマのコインに換えてほしいんですけど」
一瞬静まり返ります。それは、換えられるどうか迷いが出てくるからです。
そこで改めて聞きなおすと、「いいですよ」という子と「だめですよ」という子に分かれます
「いいですよ」と言った子には、「何枚に換えてもらえるか、その数だけおはじきを取ってください」と言い、「だめですよ」と言った子には、「もう一度考えてみてください」と問いかけ、おはじきを取らせます。それでも「だめですよ」と言っている子に理由を聞いてみると、「だって約束してないから」と答えます。どこにもカメとクマのコインを交換する約束はしていませんから当然です。しかし一方で、「ウサギのコインに換えてみればできる」という子が何人かいるため、じゃあやってみて・・・と促します。すると答えは、大体「4」と「2」の2つに分かれます。
4と答えた子に説明を求めます。すると指示棒とカードを使ってホワイトボードの前で説明を始めます。
「まずね。12枚のカメのコインをウサギにかえるの」「そうすると4枚でしょ。だから4枚なの」
2と答えた子はこれを聞いて、
「その4枚はウサギだから、もう一度クマに換えなければいけないの」と主張します。

幼児では不可能と考えてきた、「答えの根拠をみんなの前で発表する」こと、また、友だちの答えに対しても自分の考えをぶつけていくことが、5歳児でも十分できることが分かってきました。
こうした集団での討議は、フランスで制作されたあるドキュメンタリー映画を数年前に見て以降、日本の子どもたちもできるのではないかと考え、いろいろな試みを行っているうちのひとつです。
「小さな哲学者たち」というこの映画は、フランスの幼稚園で行われた授業「哲学のアトリエ」に2年間にわたって密着したドキュメンタリーです。「子どものための哲学」という研究が、1960年代、コロンビア大学の教授マシュー・リップマン氏によって発表され、それ以来いろいろな取り組みが行われているようです。子どもが持っている「考える力」を話し合うことでさらに高め、その後の認知能力と学習力、生きる力へとつながっていくことを提唱したようです。その考えに基づき、2007年にフランスの幼稚園で初めての試みが始まったということのようです。
