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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

教科書のない入試で、何を根拠に問題を作成するのか

第438号 2014/6/6(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校入試に向けた準備教育に関して、学校側から警告が発せられるほど教え込みの教育が蔓延しているのは、何をどこまで準備したら大丈夫なのかのガイドラインがないからです。本来ならば教科書があって、それを徹底して学び、一歩先の難しい応用問題に取り組めば大丈夫だという了解ができていれば、それに沿った受験対策が可能です。しかし、幼稚園にも保育園にも教科書は存在しません。唯一「過去問」があるのみです。ですから、ほとんどの準備教育では、早い段階から「過去問」に取り組み、解き方そのものを教え込んで解決させようとしています。しかし、年長の11月に課す問題を、4歳ごろからやってもできないのは当たり前のことです。自分の力で解いていくためには、基礎的事項の積み上げが大事です。しかし、その「基礎的事項が何なのか」「何をどう積み上げたらよいのか 」もわからない指導者が、受験準備の教育を担当しているのですから、その指導がどうなるかは容易に想像できます。ペーパーを大量に使って、過去問トレーニングをするしか方法はないのです。過去問を一つでも多く解かせることが自己目的化し、どんな考え方を身につけるかは誰も明らかにしませんし、いきおい指導の順序はでたらめです。過去問を解かせれば、それが受験対策だと思いこまされ、毎日何十枚というペーパー学習に子どもを追い込むのです。その結果、受験が終われば勉強に興味を持たない子どもを大量に生みだし、その子たちが小学校に入学していくわけですから、学校側が警告を発するのは当然です。

ところで、学校側は一体何を根拠に問題を作成しているのでしょうか。
問題のひとつひとつを見ると、実に工夫された問題が出されていますが、何を参考にしているのでしょうか。私が関わった42年間を振りかえると、小学校入試は次のように変化してきました。

1. 集団用及び個別用の「知能検査」の問題を出していた時代
2. 小学校低学年で学ぶ内容を、易しくして大量のペーパーを出していた時代
3. ペーパー対策の弊害を指摘され、ほとんどの学校でペーパーを廃止し、具体物やカードを使って個別テストをしていた時代
4. 多くの学校で6枚前後の工夫されたペーパー・行動観察・面接の三本柱で試験を行うようになった現在

このように変わってきた入試を見ると、何を問題作成の根拠にしているのかは明らかです。

A) 知能テスト
B) 低学年の算数・国語
C) 今の子どもたちに欠落している能力
D) 高学年の文章題で求められる思考法
E) 他校で出された工夫された良い問題

こうした状況の中で、こぐま会の「ひとりでとっくんシリーズ」で取り上げたオリジナル問題が入試で採用されたり、その中で求められる「思考法」を使って新しい問題が工夫されたりしており、今や小学校入試の教科書的役割を、「ひとりでとっくん365日」が担っています。幼児期における基礎教育はどうあるべきかを考え、教室で実践し、子どもたちの反応を検証しながら作り上げた問題集ですから、子どもの理解の道筋に見合った問題集であることは間違いありません。そこで求められる「考える力」が入試問題に採用されている現状を考えれば、振り落すための難問・奇問を学校側が入試で出そうと考えていないことは明らかです。それは、解く技術を教え込むような、教え込みの特別教育は必要ないと言っていることにほかなりません。

つまり、暗記して解く問題ではなく、考える力が求められる問題が多く出されているということです。学校側も訓練によって解ける問題ではなく、自ら考えて答えを導き出す問題を出したいと考えていますから、そうした問題は、子どもにとっては一度もやったことのない問題に映るわけです。こうした入試の現状を考えれば、毎日30枚~40枚のペーパーをただこなすだけの学習法では、今の入試の現状に対応できないということは明らかです。1枚のペーパーを大事にすること。そして、そこで求められているものの見方をしっかり身につけることが大事です。また、自らものごとを解決していく思考法を身につけるためには、ものごとに働きかけながら試行錯誤して考える「事物教育」を徹底するしかありません。

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