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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

なぜ「四方からの観察」がよく出題されるのか

第405号 2013/9/20(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 昨年行われた2013年度入試において、多くの学校で、私たちが「四方からの観察」と命名している課題が出題されました。5領域の一つである「位置表象」の代表的な課題で、昔からよく出されていましたが、いったんその出題も下火になっていました。それが、昨年度は申し合わせでもあったかのように、複数校でつみ木を使った「四方からの観察」が出題されました。例えば、以下のような問題です。

2013年度入試 日本女子大学附属豊明小学校
動物たちが、机の上のつみ木を周りから見ています。このつみ木は、上のお部屋のつみ木を使って作ったものです。それぞれどのように見えるか考えてください。
  • それぞれの場所から見ると、どのように見えますか。右のお部屋から選んでをつけてください。


2013年度入試 光塩女子学院初等科
机の上のつみ木を動物たちが見ています。カタツムリから見ると、つみ木は左上の四角の絵のように見えます。
  • では、他の3匹はどのように見えるでしょうか。右から選んで、それぞれの印をつけてください。

2013年度入試 立教女学院小学校
動物たちが、周りから四角を見ています。それぞれの方から見ると、どのように見えるか考えてください。
  • ダイヤのお部屋を見てください。イヌから見ると、どのように見えるでしょうか。右から選んでをつけてください。
  • スペードのお部屋を見てください。絵のように見えるのは誰でしょう。をつけてください。
  • ハートのお部屋を見てください。イヌから見ると、どのように見えるでしょうか。をつけてください。
  • クロ-バーのお部屋を見てください。絵のように見えるのは誰でしょう。をつけてください。

この「四方からの観察」が重視される背景には、図形教育の基礎として、空間認識をしっかり育てておかなければならないという理由だけでなく、「視点を変えてものを見る」という、大事な思考法が問われているからにほかなりません。自分が座って見ている所以外の場所から、物がどのように見えるかを考えさせることを通して、自分以外の視点に立ってものごとを考えるトレーニングができるわけです。違う視点に立って見ると、同じものでも違って見えるという大事な思考法が、こうした課題を通して身についていけば、空間認識だけでなく、論理的な思考法を育てる「観点を変えてものごとを見る」ことが可能になるのでしょう。

幼児の場合、一つの観点にこだわるとその観点から抜け出せない傾向があります。往々にして、自分の視点がすべてだと考える傾向にあるわけです。ですから日常生活の中で、例えばけんかなどで自己主張する我が子に対し、お母さまが「お友だちの立場になって考えてごらん」と諭すわけです。思考法だけでなく、問題解決の一つとして「他者の立場に立つ」必要性を、日ごろの生活の中で、当たり前のように言ってきているわけですが、そのことが思考の発達にとってもとても大事なことなのです。

そもそも基礎学力を測る入学試験で、この「四方からの観察」が出される根拠は、心理学者のピアジェが空間認識の発達を調べるために、粘土で大中小3つの山を作って板の上に配置し、それを「四方から見たらどのように見えるか」を検査した有名なテストがあるからです。私が20年以上前に、「ひとりでとっくん」シリーズの「四方からの観察」を問題集として作った時も、その考え方をベースにし、子どもたちの生活の中にある場面を題材にしました。その中の問題を参考に、多くの学校の入学試験で類似問題を出すようになりました。こうした学問的背景があるため、子どもたちの空間認識の発達を調べるには、この「四方からの観察」がふさわしいとみているのだと思います。

では、どのように学習を積み上げていけばよいのでしょうか。今後予想される難しい問題も含め、学習手順を間違えてはいけません。入試に良く出るからと言って、1年後あるいは2年後に入試を迎える子どもたちに、同じような問題を最初からペーパーでトレーニングすることはナンセンスです。少なくとも、入試問題に取り組むまでに、次のような段階を踏んだ学習が必要です。

  1. 自分の右手・左手の理解から始まって、自分以外の右・左が理解できるように、「左右関係」の理解を深める
  2. 実際に1つのもの(たとえばヤカン)を、違う4つの場所から見えたとおりに描かせ、その違いがなぜかを考えさせる
  3. 場所が違うと見え方も違うことを体験させてから、ペーパー問題に取り組む
  4. 最初は選択肢がある問題、次に、自分で描き表す問題に取り組む
  5. 今度は、1つの物の見え方だけではなく、2~3の物の見え方を、考える
  6. 反対からの見え方を、その場に行かないで描いてみる
  7. いずれの問題においても、最初は生活用品、次につみ木というように抽象度を高めていく

できるだけ具体物を使って、上記のような手順で学習することが大事です。入試に出たからといって、すぐにペーパーで同じような問題に取り組んでも、意味がわからないまま解き方だけが身についていく結果になり、同じ趣旨の問題でありながら、違った形式で出された時にお手上げになってしまっては困ります。ひとつひとつの問題に込めた学校の想いをしっかり汲み取って正しく学習しなければ、将来の学力の基礎になっていかないでしょう。その意味で、学校が出題する問題は、振り落すための難問奇問ではなく、根拠のあるとても良い問題だということです。

こぐま会で行う「四方観察」の導入部分の授業内容を一部紹介しましょう。

セブンステップスカリキュラム step4
第20週 : 位置表象4 四方からの観察(1)
「ヤカンの写生」
  1. ヤカンの四方を囲んで座り、自分の座っている場所から見えたとおりに写生する。
  2. 写生したヤカンの絵を並べて、それぞれがどの方向から見たものかを考え、話し合う。

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