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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

言語領域の学習をどう進めるか

第287号 2011/4/8(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 1年間で合計30回行った「合格カレンダー連続講座」を今年度も昨年11月から開始し、すでに9回の講座が終了しました。入試に関する情報分析だけでなく、家庭学習の進め方についても具体的にお伝えしています。授業の進み具合と入試問題の関連をお伝えすることを通して、保護者の方が見通しを持ち、安心して家庭学習に取り組めるよう講座内容も工夫してきました。今年度第9回目の連続講座は、「言語領域の学習をどう進めるか」というテーマで行いました。最近の入試傾向を見ると、言語領域の問題に大きな変化が見られます。その変化は、子どもたちの国語力の衰えと同時に、新しい指導要領で「国語の力」を通して論理的思考力を育てるという文科省の方針を背景としたものであることは明らかです。そうした背景を踏まえ、次のような観点で話しました。

第9回 合格カレンダー連続講座
「言語領域の学習をどう進めるか」
言語領域の問題が変化し始めています
(1)
小学校入試で問われる言語領域の課題
 言語領域が重視される背景
 入試問題をどのような視点で分析するか
(2)
問題はどのように変化しているか
 聞く力の育成が、すべての教科の基本
 一音一文字の問題にみられる、学校側の問題作成の工夫
 絵本を使った出題方法がなぜ増えているのか
 話す力の重視は何を意味するか
(3)
聞く力の代表としての「話の内容理解」の大きな変化
 聖心女子学院初等科に見られる新しい出題法
 従来の質問内容と、新しい質問内容
 聞く力を育てる家庭での学習法
(4)
話す力の代表としての「お話作り」は、最後まで悩む課題
 なぜ話す力が重視されているのか
 コミュニケーション能力の必要性
 言葉による表現力の重視
(5)
「言葉の理解」に関する問題は、どのように工夫されているか
 なぜしりとりは、難問化しやすいのか
 一音一文字に見られる問題の変化
 動詞の理解の重要性

小学校入学以降学ぶ国語科は「聞く力」「話す力」「読む力」「書く力」の4本柱でその内容が構成されています。特に教科学習前の幼児の場合は、発達の度合いからして「聞く力」と「話す力」が学習の中心にならざるを得ません。そしてまた、読み書きの土台として重要な日本語の「言葉の理解」も重要です。ですから、小学校入試で問われる言語領域の内容は、聞く力の代表としての「話の内容理解」、話す力の代表としての「お話づくり」、そして日本語の理解としての「言葉の学習」の3つが中心です。この3つの柱を中心とした最近の出題傾向は、全体として次のようにまとめることができます。

  1. 「聞く力の育成」がすべての教科の基本と考えられ、問題づくりがなされている
  2. 絵本を使った出題方法のように、長いお話を聞かせながら、いろいろな領域の問題を解かせる傾向が強まった
  3. 話す力の重視は、「コミュニケーション能力の欠如」が著しい子どもたちの今を反映している
  4. 言葉の学習に関しては、「一音一文字」に関する問題と「しりとり」が難問化している

では、もう少し具体的に見てみましょう。聞く力の代表としての「話の内容理解」は、従来から4つの質問事項が基本でした。その4つとは、「1.登場人物、2.順序、3.数、4.登場人物とその行為の関係づけ」ですが、今でもこの4つの質問内容が中心であることは変わりません。しかし、それ以外の質問も多く見られ、質問内容が多様化してきました。その一つの形が、絵本など長い話を使ってすべての領域の内容を取り上げていく方法です。最初から最後まで一貫した長い話を聞かせ、話を途中で区切りながら質問していく方法です。聖心女子学院初等科の出題方法がその典型ですが、話の内容理解の形式をとりながら、実は質問のほとんどが数の操作に関する問題であったという場合もあります。また、「三者関係の理解」「私は誰でしょう」「地図上の移動」など、従来の話の内容理解では出題されなかった質問が出されるようになってきました。なぜ、このような形の出題が増えたのでしょうか。それは、「聞く力」がすべての教科の土台になると考えているからにほかなりません。話の内容を「記憶」するというより、「理解」するということを重視した問題づくりだと思います。

次に、話す力の代表としての「お話づくり」を見てみましょう。なぜ話す力が重視されているのかは、先ほど述べたように、コミュニケーション力が弱くなった今の子どもたちの現状を反映しています。結論しか言わない子どもたちが多い中にあって、自分の気持ちや考え方を言葉を通して他人に伝えていくことを重視しているからです。言語を通して物事を論理的に考えていく、文科省の方針とも合致しています。そのことは、単にお話づくりの問題だけでなく、行動観察で見られる「インタビューごっこ」や相談して解決させる場面の設定などにはっきりと表れています。「会話力」や「発表力」の習得には時間がかかります。ですから、この点が苦手な受験生は最後まで悩む課題の一つです。昔から絵カードを使って話をつくらせる方法が一般的でしたが、最近この出題方法も変化しています。使う絵が4枚から3枚になり、3枚から2枚になり、最近では1枚の絵を使ってお話をつくる問題も出されています。また、表情の変化を読み取ったり、抜けている場面を想像したりしてお話をつくる問題も出されています。従来のように、時間的経過に沿って絵カードを並べ、それで話をするといった形式に変化が見られます。原因と結果を考えるように、明らかにお話づくりの中に論理性を求めていることがわかります。また、話す力は書く力の源と考え、言葉による表現力の重視は将来の作文教育の礎となっていくはずです。

さて、3つ目の「言葉の学習」は、母国語である日本語をしっかり理解するという趣旨ではあるのですが、実際の入試問題となると、言葉の問題以上に「論理」が絡んでくる問題が多数見られます。その一つは「一音一文字」に関する問題、そしてもう一つは「しりとり」に関する問題です。言葉遊びでありながら、そのルールを論理的に捉えなくてはできないような問題が多数出題されています。例えば、次のような問題が実際の入試で出されています。

「一音一文字」
「一音一文字」の出題例 「一音一文字」の出題例
「しりとり」
「しりとり」の出題例 「しりとり」の出題例

この他にも、動詞に関する問題、形容詞や副詞に関する問題など、工夫された問題がありますが、やはり幼児期の言語教育は「聞く」「話す」ことを中心に、普段の生活の中で解決すべき問題がたくさんあるように思います。普段の言語生活を豊かにするために、会話する時間を増やしたり、絵本の読み聞かせを毎日行うなど、地道な努力が必要だと思います。

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