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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

幼小一貫教育を考える(3) 教科前基礎教育の内容

第280号 2011/2/11(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校で学ぶ内容を薄めて下ろすのではなく、子どもの発達と教科の系統性を踏まえて、下から上に積み上げる幼児期の基礎教育プログラムをどうするかは大変重要な課題です。しかし、どこの国を見ても、そうした幼児教育プログラムはありません。子どもの発達の道筋と学ぶ内容の順序性がわからなければ、新しい発想のプログラムはできないのです。しかも、この仕事は研究者と実践者が一体となってすべき仕事です。ところが、研究者は理論が先にあり現実をありのままに見れないし、一方実践者は専門性が希薄のため画期的な実践も理論化できず普及しないのです。したがって、この仕事は子どもに接する実践者が理論武装して積み上げていくしかないのです。また、教育の成果を図る尺度がないのも、プログラム化していく上で困難さを増していきます。

遠山啓氏が提案した「原教科」の内容を一つずつ作り上げていく仕事が、私の40年近い実践者としての仕事でした。教科前基礎教育と命名し、基本となる5つの領域の学習内容を発達に即してプログラム化したのが「KUNOメソッド」です。その5つの領域とは、

1. 未測量
2. 位置表象
3. 数
4. 図形
5. 言語

ですが、数字を使った計算はさせない、文字を書かせたり読ませたりすることを基本としないで、「聞く・話す」を中心としたプログラムにすることを念頭に、螺旋形カリキュラムの考え方を取り入れながら作り上げてきました。未測量は、数概念の形成に欠かせない量の認識を育てるだけでなく、比較・相対化・系列化といった論理のトレーニングをするためにも大事な領域です。図形教育の基礎となる空間認識を育てるための「位置表象」は、上下前後左右の基本となる位置関係を踏まえた学習です。数は、分類と数の操作の2本柱を中心に、集合数の考え方と四則演算の基礎を作ることを目指します。しかし、決して計算トレーニングをするわけではありません。生活の中における数的体験を再確認し、四則演算の基礎を身につけるものです。図形領域の学習は、平面図形と立体図形を扱い、図形構成を中心とした活動を通して、図形感覚を磨く事を第1の目標にしています。また、「言語領域」の学習は、「聞く力」と「話す力」を最大限伸ばすことと、日本語の理解に絡む「言葉の理解」が学習対象になります。年長児の場合、年間42週の「セブンステップスカリキュラム」として具体化し、基礎から応用へ、また具体から抽象への原則を守りながら教室での指導を徹底してきました。小学校受験の対策についてもこのメソッドが有効であることは、教室授業の成果が「ひとりでとっくん365日」の問題集に結実し、今や小学校受験のための教科書的役割を果たしていることを見ても明らかです。受験対策といえども、こうした理論化されたプログラムでの基礎教育がどうしても必要です。ペーパーによる過去問トレーニングのみの対策では、小学校に入学しても何も役立たないということはすでに多くの学校で証明されています。入試問題全体が基本に戻り、生活に根差した設問が多くなってきているのも、この問題と無縁ではありません。

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