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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

今年の入試から何を学ぶか(1)

第268号 2010/11/12(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 都内の私立小学校の入試も一段落し、これから国立附属小学校の入試が始まります。今年の入試がどのように行われたか、また合否判定はどのようになされたのか等、現在いろいろな情報を集め分析しているところです。まとまり次第、来期の受験生の皆さんに詳しくお伝えする機会を設けたいと思います。

今年の入試で際立ったことは、学校によっては出願者がだいぶ減少しているということです。私立小学校の入試を目指すご家庭が減ったとは結論できませんが、少なくとも名目上の倍率でみる限り、出願者が減っている学校がみられます。また、受験した子どもの話を総合しても、当日欠席者が多かったことも判明しています。願書を出しておきながら、実際は試験時間が重なり、受験できなかったというケースはこれまでもありましたが、今年はその報告が目立ちます。出願者が減ったことが小学校入試を目指す方が減ったと結論付けられないひとつの理由は、第1志望校への絞り込みがかなり徹底してきたことがあげられます。従来、重なることを承知の上で多くの学校に願書を出していた人たちが大勢いましたが、昨年あたりから、学校側も第1志望校かどうかの見極めをかなり厳しくするようになったということで、願書を提出する学校を絞り込んだということは考えられます。特に最近では、10月に行う面接試験でぶつかってしまうことも多く、日時の変更も難しくなり、そうしたことを考慮して、みすみす無駄になる受験料は払わないということが徹底してきたのかもしれません。

現在各学校の入試問題を整理し、分析を始めていますが、全体として入試問題はやさしくなった感じがします。やさしくはなっていますが、基本がしっかりわからないと問題の趣旨がつかめず、できなかったケースがあったのではないかと思います。パターン化したトレーニングでは新しい問題の聞き取りがまずできません。学校側はそうした問題を出してくるのです。例えば、今年ある学校で出された次の問題を見てください。

  • 言葉の最後から2番目の音で始める言葉を探していきましょう。
    えんつ → ピノ → アヒル
  • では、ペーパーを裏にして今度は自分でやってみましょう。
    できるだけ長く繋がるように青のクーピーで線を結んでください。
(にわとり → とうもろこし → こあら → アイロン → ろうそく → そうじき)

この問題は、私の知る限りはじめて入試問題になったものだと思います。「しりとり」といったかどうかは定かではありませんが、もし「しりとり」と言ったとすれば問題です。「しりとり」とは、言葉の最後の音を次の言葉の頭に持ってくるからこそ「しり」(尾)をとるゲームであり、この線つなぎは「しり」ではありませんから「しりとり」と言ったとすれば、子どもに混乱を起こすことになります。「言葉つなぎ」とでもいうべきでしょう。だからこそ練習問題がついていたのです(この学校は過去に練習問題をやったという記憶はありません)。この問題を聞き取った時、子どもたちも相当混乱していたなというのが最初の感想です。後ろから2番目の音を一番頭に持ってくるという約束は、やはり子どもたちもしりとりをイメージするでしょう。事実この学校は過去何度も難しい「しりとり」を出しているのですから、受験生はきっと予想問題としてしりとりを練習してきているはずです。それが徹底している子であればある程、この問題の趣旨が理解できず、混乱したはずです。ひとつのことを徹底しすぎてしまうと、新しい形の問題を理解するのに相当の時間を費やします。形だけを飲み込んできた子どもたちには、この問題の意図は伝わりにくかったはずです。しりとりを含め、こうした問題の基本は「一音一文字」という考え方です。日本語はいくつかの音が組み合わさって言葉を形成していて、ひとつの音がひとつの文字を表しているという考え方が「一音一文字」の考え方であり、日本語の文字指導においては基本中の基本です。こぐま会では、創立当初からこの課題をカリキュラムの中に入れてきました。しかし30年も前の入試ではこうした問題は皆無でした。この「一音一文字」が小学校入試で盛んに出されるようになったのは、ここ10年から15年の間だと思います。例えばこんな形でいろいろ変形しています。


一度も入試に出なかった問題がある学校で出されると、一挙に各学校に広まります。この「一音一文字」の課題も、問題の変遷を繰り返し、いまや多くの学校で重要課題になっています。行動観察のルールにも用いられたことがあります。

つまり、新しい形の入試問題の基礎は必ずあり、その基礎をしっかり理解させておかないと設問の意図すらも掴めないまま終わってしまうということです。今後考えられるさまざまな新しい問題を理解し、正しく解いていくためには、遠回りのようでも基礎をしっかり学習する必要があります。今回のこの問題は、受験勉強がとかく形式的な教え込みに流れがちな「入試対策」の在り方に警鐘を鳴らしているようにも思えます。幼児期の基礎教育をきちんと行うこと・・・それがこれからの入試対策には必要だということです。

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