週刊こぐま通信
「室長のコラム」小学校は、訓練された子どもを求めていない
第265号 2010/10/22(Fri)
こぐま会代表 久野 泰可
こぐま会代表 久野 泰可

神奈川の私立小学校では、ほとんどの学校で試験も終わり、多くの学校で合格発表もありました。都内の私立小学校では連日面接試験が行われ、11月1日から学力試験が始まります。入試は毎年同じではありません。大きく変化することもありますので、聞き取り調査を徹底し、入試の実態をあらゆる角度から明らかにしていく必要があります。来年以降受験される方にとっては大変重要なことですので、しっかり分析してお伝えしたいと思います。11月は都内の入試が始まると同時に、来年受験される方々のための授業が始まります。私たち現場教師は息つく暇もなく、また1年後の入試に向かってスタートしなくてはなりません。
来年受験される年中児の皆さんを対象に、小学校入試を正しく理解するための連続講座を8月31日から始めてきましたが、昨日行った第5回目の講座では「間違った受験対策にならないように」と題して、1年間の受験対策のあり方をお伝えしました。話の内容は以下の通りです。
小学校入試を正しく理解する 第5回
- 「間違った受験対策にならないために」
まともな幼児教育をこそ、学校側は求めている - 1. 間違った受験対策はなぜ起こるのか
- A) 情報が開示されていない
B) 業者側の思惑による情報操作・噂話の流布
C) 幼児教育の専門家でないものが、簡単に参入できる小学校受験
D) 子どもの発達・理解の道筋・学校側の出題意図が分かっていない素人教師
E) 結果を急ぐ母親・ペーパー主義の横行
F) 公開模試で出される、根拠のない難問 - 2. 学校は訓練された子どもを求めていない
- A) 子育ての総決算としての入試
B) 行動観察で自由遊びが重視される背景
C) 訓練ではレディネスになりえない
D) 訓練によって、自由な発想・柔軟な思考力は育たない - 3. まともな幼児教育こそ、合格への近道
- A) 子どもの理解度に合わせた学習計画
B) 学びの系統性を踏まえた学習
C) 方法としての事物教育
D) 具体から抽象への授業方法
E) 考える力を育てるには、物事への働きかけや試行錯誤の時間が必要 - 4. 事物教育とラセン型系統学習の実践
- A) こぐま会セブンステップスカリキュラム
B) 教科前基礎教育・事物教育・対話教育
C) 合格カレンダーの実践
これから1年間かけて教室に通い、家庭学習を徹底して入試で求められる学力を身につけるためには、相当な準備が必要です。その際重要なのは、どんな考え方で入試対策に臨んだらよいかということです。受験対策の方針をしっかり持たないと、いろいろな噂話で足元をすくわれ、落ち着いて学習ができなくなります。「間違いだらけの受験対策」の最たるものは、スタート時点からペーパー学習になだれ込み、過去問を1日も早く解かせることに集中する教育です。過去問は学習の到達目標であり、最初から取り組む課題ではありません。実際に出された問題を自信を持って解くだけの力を、これから時間をかけてどう育てるか。その際、子どもの理解の道筋や、学習内容の系統性といった点での専門的な知見が必要なのです。入試問題の分析も正確にできないで、ただ過去問を並列し、基礎もできていない子どもに系統性もないまま教え込む学習では、子どもをつぶすだけです。莫大な時間を注ぎ込む受験対策であるなら、将来の教科学習の土台をつくる、まともな基礎教育をこそ実践すべきです。教育投資としてもあまり意味のない、形式だけを教え込む受験教育だけは、絶対に避けるべきです。見方を変えれば、受験は幼児期における基礎教育の最大の動機付けになりうるということです。私たちが「教科前基礎教育」の理念を掲げ、幼児の発達に合った「事物教育」を教育方法の中心に据え、あらゆる入試問題に対応できる「考える力」を育てたいと考え、実践してきたのは、本来行うべき幼児期の基礎教育の内容について、多くのヒントがこの小学校受験にあると考えているからです。
ペーパートレーニングのみの学習や訓練によって身に付けた解き方で入試問題を解決できる時代はすでに終わりました。自分の力で考え、道筋を立てて問題を解いていく「考える力」の育成こそが、合格に導き、かつ将来の学習の土台をつくる、唯一の教育法だと思います。現在の入試が「実力主義だが、学力主義ではない」と言われるのは、学校側が、決して年長11月のペーパーテストの得点が将来の発達を保証するものではないと考えているからです。「遊べない子は伸びないんだよ」と言われたある小学校の校長先生の言葉にそのすべてが集約されています。生活態度も、人への思いやりも、そして「考える力」も、本当に身につくとはどういうことか考えてみてください。その意味で、小学校受験における家庭教育の果たす役割は非常に大きいということを再確認しておく必要があります。
子どもが物事に働きかける経験を排除し、ペーパーを使った教え込みの訓練だけで身に付けた学力や生活態度では、残念ながら今の入試では合格できません。そのことは今年の入試でも必ず明らかになるはずです。