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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

応用段階を迎えた子どもの学力の現状(2) 一対多対応の応用

第247号 2010/6/11(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 小学校入試で出題される問題の中で数に関する問題が多いのは、学校教育で「算数科」がどれだけ重視されているかの反映でもあります。考える力を見るのに一番ふさわしい領域であるからに他なりません。小学校では、1年生から3年生までかけて四則演算を練習しますが、小学校入試ではたし算・ひき算の世界だけでなく、かけ算・わり算の考え方まで出題されます。それは、幼児といえども生活の中ですべての数的生活を体験しているからです。計算させるのではなく、10前後の数の操作をさせながら加減乗除の考え方を問いかけています。

その中で、数の扱う範囲が一挙に広がるのは、かけ算の考え方の基礎である「一対多対応」の学習をしてからです。こぐま会では第21週に「一対多対応」の学習をしますが、それが理解できることによってわり算の「包含除」の考え方まで理解が進み、また、たし算やひき算の考え方と複合されることによって、生活場面で起こりうるさまざまな問題に取り組むことができます。ものを配ったり、ものを分けたり・・・する行為は、遊びとしても生活行為としてもいたるところで経験しているからです。

かけ算の基礎となる一対多対応は、入試では生活場面を捉えて工夫された問題が数多く出されていますが、授業では次の2つにテーマを絞って基本となる考え方を指導しています。

1. 子どもの数と1人にあげるものの数との関係で、全体の数を求めたり、足りない数や余った数を考える
2. タイヤに着目し、自転車・三輪車・自動車の数と全部のタイヤの数の関係を求める

入試でも、次のような問題が出されています。

  1. 駐車場に3台車が止まっていました。そのうちの2台が出ていき、また3台やって来ました。今ある車のタイヤの数は全部でいくつですか。その数だけ丸を描いてください。
    (聖心女子学院初等科)


  2. 3つのベンチに男の子と女の子が座っている絵がある。2つのベンチには3人ずつ、1つのベンチには1人が座っている。
    問1(4つのカゴにミカンが4つずつ入った絵がある。)カゴの中のミカンを1人に2個ずつあげると、ミカンはいくつあまりますか。その数だけ丸をかいてください。
    問2女の子がもう1人やってきて座りました。カゴのミカンを女の子全員に3個ずつ配るには、ミカンはいくつ足りませんか。その数だけ丸をかいてください。
    問3最初にベンチに座っていた人の数で考えてください。男の子にも女の子にもミカンを3個ずつあげるとき、男の子と女の子のミカンの数はいくつ違いますか。その数だけ丸をかいてください。
    (雙葉小学校)

こうした問題を基本としながら、「一対多対応」の考え方はいろいろ応用されていきます。入試において難しい問題の典型とされる「シーソーのつりあい」や「あるものを仲立ちとした交換」などは、「一対多対応」の考え方を用いる応用段階での大事な課題です。最近の授業でも次のような問題を学習しました。

【A】リンゴ1個はミカン2個とつりあっています。ミカン1個はクリ3個と同じ重さつりあっています。
下のそれぞれのシーソーをつりあわせるには、右側の?のついたものをいくつのせればよいですか。その数だけシーソー右側に青いをかいてください。
- 解答 -

【B】のついた箱1個とのついた箱2個は同じ重さです。また、のついた箱1個は、×のついた箱4個とつりあっています。
下のそれぞれのシーソーをつりあわせるには、右側の?のついたものをいくつのせればよいですか。その数だけシーソー右側に同じ形をかいてください。
- 解答 -

上に紹介した2つの問題は、「ひまわり会」で行っている「考える力を育てる難問講座」3回目の授業で使ったものです。【A】の場合のポイントは2つあります。

1. リンゴからミカンを聞くだけでなく(一対二対応)ミカンからリンゴも聞く(包含除)
2. ミカンを仲立ちとして、リンゴと栗の関係を考える

また、【B】のペーパーのポイントは

1. 右で問いかけているものと同じや×が左にも乗っている
2. を仲立ちとしてから×を聞くのではなく、×からを聞く

この2枚のペーパーで身につけなくてはならないことは、あるものを仲立ちとして重さの関係を考えることですが、【B】の最後の問題にあったように、あるものを仲立ちにして考える場合も「逆からの問いかけ」が必ず必要だということです。【A】で練習したように、リンゴからミカンを聞くだけでなく、ミカンからリンゴを聞くという「逆の質問」が大事です。子どもたちの一方通行の思考法を破壊するために、視点を変えて「逆から問いかける」ことを重視した練習問題です。つまり、そこを強調するということは、この時期その点で間違える子が多いという私自身の指導経験が前提になっています。

ひとつの問題の中で、何が子どもにとって難しいのかを指導者が把握しておかなければ、教室で何を重視した指導をしたらよいのかが明確になりません。子どもの間違いには必ず原因があります。その原因を取り除くために、どんな練習をすればよいのか。入試に出たからといってそのままの形で過去問練習をしても、子どもたちの思考を育てることにはなりません。幼児の指導に専門性が必要なのは、子どもがもの事をどのように理解していくのかをしっかり把握しておくことが必要だからです。自分の子どもをある小学校に入学させたからといって、そのことだけで『受験指導の専門家』にはなれないのです。専門性がなくても、だれでもが簡単に参入できてしまうお受験業界のハードルの低さと、小遣い稼ぎのアルバイト感覚で指導ができてしまう安易さは、子どもたちの将来のためには決して良いことではありません。幼児の受験だからこそ、人間的な温かさと教育者としての専門性が求められているのです。

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