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週刊こぐま通信
「室長のコラム」

香港の幼児教育機関を視察して

第117号 2007/09/07(Fri)
こぐま会代表  久野 泰可

 8月30日から4日間ほど、香港の幼稚園や保育園を視察してきました。来年4月から現地の幼稚園において「KUNOメソッド」による授業が始まるため、その準備を兼ねて、香港における幼児教育の現状調査を行ってきました。

 日本人向け現地校ではまだ授業は始まっていませんでしたが、インターナショナル校と保育園は、すでに子どもも登園していました。新学期早々ということで、子どものいる保育の現場は見学できませんでしたが、園長や主任の先生方に、教材を含めていろいろな説明を受け、実際の保育がどのようにおこなわれているのか、よく理解できました。

 私は、昨年来韓国や中国の幼稚園で行われている保育の内容を見聞きして来ましたので、日本と違った香港の幼稚園での教育のあり方については大方の予想はしていましたが、それでも、2歳から英語・広東語・北京語を学習し、年長からは、コンピューター教育も行われている現実を知り、あらためて日本と違う教育の現実に驚きを隠せませんでした。確かに母国語が確立していない段階から他言語を習得させるのが良いのかどうかという議論はありますし、現地の教師の方々もその点では異論もあるようですが、日本の場合母国語である日本語すら系統的に指導されることはまれな現状を考えると、やはり日本の幼児教育のあり方は、どこか間違っているのではないかと、考えざるを得ません。

 そもそも、教育ということに関してまったく違ったとらえ方をしているのかもしれません。香港をはじめ中国や韓国の幼児教育の内容や方法を見ると、幼児期の教育ですら、「育てる」ということより、「教える」という側面が強く前面に出ている感じがします。

 インターナショナル校で使用されている教材や、保育園で見せていただいた子どもの観察記録等の作品から判断すると、日本で言うところの「読み・書き・計算」は徹底して行われているようです。保育園の「電脳室」には、子ども用の低いいすとともにコンピューターが5~6台が並べられ、子どもがコンピューターに触れる機会をたくさん作っているようです。担当している教師たちも、読み書き計算を徹底することに何の疑問も持たず、どのようにしてあげれば子どもたちが楽しく学べるかを工夫し、たくさんの手作り教材を開発していました。その工夫には、学ぶべきところがたくさんありました。

 ただ私たちがテーマにしている、「考える力」を育てる教育という点になると、ほとんどプログラムを持ち合わせていないのではないかと感じました。保育園の園長であるシスターに、言語教育等少し難しいのではないかと尋ねると、「日本のように自由に遊ばせたい」と思う時もあるが、それをすると、ほとんどの子が他の保育園に移ってしまうということでした。つまり保護者の教育要求に応えていかなければ、保育園でも生徒が集まらなくなってしまうということのようです。親の教育要求は、学歴社会の反映だと思いますが、働くお母さんたちも子どもの将来を考え、きちんとした教育を保育園にも求めているのでしょう。日本の保育園でもそうした動きが出始めていると聞きますが、その前に、幼稚園や保育園がもっときちんとした考え方を持って教育を行わない限り、日本の子どもたちの学力はますます崩壊していくだろうと思います。

 香港の幼稚園や保育園での方法がすべて正しいとは思いません。日本と香港の幼児教育があまりにも両極端であるばかりに、驚いてしまうのですが、そうした現状を見れば見るほど、私たちが実践している「教科前基礎教育」という考え方をもっと広めていかなくては・・・という思いを今回の視察を通じて強く持ちました。

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