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週刊こぐま通信
「小・中・高 現場教師が語る幼児教育の大切さ」

vol.12「「考える力」が未来をつくる」

2010年6月18日(金)
プラウダス講師 石原弘喜
僕は現在、中学受験から大学受験に携わっていますが、幼児教育も教えていると初めて聞いた人はみな目を丸くします。確かに大学受験と幼児教育は意外な組み合わせです。東大英語のパラ整序の解説授業のすぐ後で、年長児と一緒になって具体物を使って笑顔で授業している自分のギャップに、思わず笑ってしまうこともあります。

しかし、この意外性がそれまで見えなかったものを照らしてくれました。個々の生徒の過去・現在・未来を結ぶ線を意識するようになったのです。学力が育まれる過程でその線はさまざまな形に変化します。その線の形と始点と終点が、学力の発達度を測る上で重要な意味を持つことに気付いたのです。

――東大や京大に合格していった生徒たちの線は、過去からどのような形を辿ってきたのだろうか。4歳児の「現在」は彼らの「過去」と同じ地点にあるのだろうか。小学生はどうか。中学生はどうか。今年の大学受験生はどうか。

時間軸に沿って形づくられた「過去」から「未来」への線。それを俯瞰することで、それまで身近にありながら、気付くことができなかった学力の世界を見ることができました。それまでの僕は、「現在」の視点から経験上いくつかのグループに分けられる学力類型の中に生徒を分類していました。その後に授業や生徒とのコミュニケーションで得られる学力を診断することで、細かに学力を把握してきたのです。他の生徒と学力を相対化することで、それぞれの学力の欠点や特性を洗い出して成績向上につなげてきました。

しかし、相対化とは「現在」における他者との差異です。他人といかに差をつけるか、またはつけられないか、です。差をつけるためには「他人ができない問題(=難問)が解ける」ことが求められるのであり、差をつけられないためには「他人ができる問題を確実に解ける」ことが求められるのです。「他人ができない問題が解ける」ようになるためには、時間がかかるだけでなく忍耐力やポジティヴで前向きな気持ちが必要です。そうやって難問が解けたとしても、それだけで得点が飛躍的に向上するとも限りません。

一方、「他人ができる問題を確実に解ける」ようになるのは、さほど難しくはありません。以前やった問題が解ければいいだけです。これは中学受験や高校受験だけではなく、大学受験や資格試験にも通じます。「前にやった問題が解ける」ことが合格への必須条件であり、それを確実に解けるようになるために最も効果的なのは復習と類問練習です。

同じ問題や類問をひたすら解く。反射的に解けるまで解く――。

反射的に問題が解ける。これは裏返せば「思考なく解ける」ということを意味します。もし、幼児や小学生の段階で「反射的に」問題を解く習慣になっていたとしたら、学力の発達が足踏みしていると断言できます。反射的に問題を解くことに慣れた子どもは「考える」ことを面倒臭がります。「考える」ことに喜びを感じなければ、初見の問題や難問に取り組むことができません。未知の問題にワクワクするようなポジティヴな気持ちも、粘り強く取り組む忍耐力も養われないのです。初めて見た問題に、後先考えずに我を忘れ没頭できる「現在」が、輝かしい「未来」に向かって積み重なっていくのです。

「考える力」は高温で熱せられたガラス細工と同じです。幼小期がまさに高温で熱せられた時です。冷めてしまえばそれを大きくするのは至難の業なのです。こぐま会の久野先生が幼児期の「考える力」の重要性を説いていらっしゃいますが、大学受験の視点から見てもまさにそうです。日常の体験によって「考える力」を育むべき時期には、しっかりとそうしてください。大人の視点で目先の「現在」を追わせることなく、「未来」のために日常の体験から「考える力」を与えてやってください。

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